アルゼンチンのマルベックを世界の舞台へ上げた ヴィーニャ・コボス

写真:アメリカ、フランス、スペイン、アルメニアでも自らのワイナリーを構えるポール・ホブス氏。

世界30以上のワイナリーでコンサルタントを請け負うポール・ホブス氏。自身のワイナリーのひとつがアルゼンチンにある。土地や環境の違いに合わせて柔軟に対応し、新境地を切り開くのが得意な彼がこの地で見出したものとは。

取材・文 名越康子

数々のワイナリーで名声を上げ続けているポール・ホブス氏は、ニューヨーク北部の農園主の家に生まれた。おもにリンゴを栽培していたようで、ホブス少年はリンゴの味わいやテクスチャーが畑ごとに異なることに気がついていたと言う。幼い時分から味覚や嗅覚が鋭かっただけでなく、果実と土地や環境との関係を自然と考える習慣がついていたに違いない。

「ブラマーレマルベックヴァジェ・デ・ウコ2017」(左)は、サン・カルロス、トゥプンガト、トゥニヤンの畑より。「マルベックシンガレッティ・エステート2018」は、トゥプンガトのヴィージャ・バスティアスにある単一畑より。

ホブス氏が初めてアルゼンチンを訪れたのは1988年のこと。その時に出会ったニコラス・カテナ氏から、翌年にワールドクラスのシャルドネを造るプロジェクトのために招聘され再訪した。そこでマルベックの潜在能力に気がついたと言う。1992年から実際にマルベックでワインを醸造し始め、確信したのだろう。1997年にヴーニャ・コボスを興した。

拠点としたのは、メンドーサ市の南南西で標高1,000mに位置するルハン・デ・クージョのマルキオリ畑。マルキオリ家が1920年、1960年に植樹された古木がある。この畑からヴィーニャ・コボスの初ヴィンテージ「コボス・マルベック1999」が生まれた。これが、世界のワイン界に「アルゼンチン」の「マルベック」を知らしめる大きなきっかけとなった。その後も「コボス・マルベック・マルキオリ・エステート2011」が2014年に南米産ワインで初めてジェームス・サックリング100点を獲得するなど、幾度となく話題をさらった。

ヴィーニャ・コボスには、複数のラインがある。「フェリーノ」はヴァラエタルワイン。「ブラマーレ」は地域の違いを表現しており、「ルハン・デ・クージョは果実味、ヴァジェ・デ・ウコはスパイスが特徴」だと説明する。そして「エステート」は単一畑ラインで5銘柄造っている。ルハン・デ・クージョのマルキオリ畑からは、マルベックとカベルネ・ソーヴィニヨン。ヴァジェ・デ・ウコのチャナレス畑からはマルベックとカベルネ・フラン。同じくウコのシンガレッティ畑からはマルベックとシャルドネ。

3か所の畑の条件合う適切な品種を選んでいる。しかしマルベックの場合には、品種は同じであっても畑によりその表情が異なることを世に示したいのだろう。「テロワールの影響」をこのように示唆している。ジンガレッティ畑は、バラやスミレなどのフローラルな香りと酸、エレガンス、きめ細かなタンニン。チャナレス畑は、野生のハーブのアロマとタンニンのストラクチャー。マルキオリ畑は、プラムやチェリーなど凝縮した果実、複雑性と心地良いタンニン。

ホブス氏は、とくに優れた畑を見つけ出し、その潜在能力を引き出す栽培を行い醸造するのに長けた人物である。そう評価されている。つねに研究家の視点を持ち、違いや疑問を感じたら徹底的に調べ上げ、その結果をワインに反映させる。こうして積み上げて来た実績こそが、評価に結びついているに違いない。

シンガレッティ畑は標高1,150mにある。1920年植樹のマルベック。北側の丘陵地帯から冷風が吹き降りるからか、同じ標高の他の地区より涼しいと言う。

 

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