第3回「OIV(国際ブドウ・ワイン機構)登録品種サミット」

7月9日、第3回「OIV(国際ブドウ・ワイン機構)登録品種サミット」が北海道、十勝平野の池田町で開催、オンラインで配信された。第1回の甲州、第2回のマスカット・ベーリーAに続いて、第3回のテーマは山幸。山幸は、北海道の十勝平野の池田町で独自開発された品種で、2020年にOIV登録されている。清見と、寒さに強い山ブドウとを掛け合せた品種で「土に埋めなくとも北海道の冬を越せる」(北海道大学大学院教授の曾根輝雄氏)と、その優れた耐寒性が注目されている。「池田町は1950年代からブドウ栽培が始まり、寒冷地に適した品種の改良・開発を重ねてきた。ブドウ栽培は本町にとって『まちづくり』そのもの」と、池田町の安井美裕町長。

北海道の山幸ワインを商品例を紹介する、北海道大学大学院教授の曾根輝雄氏。(画像はYouTubeの公式配信より)

そもそも日本固有品種には、遺伝子的にヨーロッパブドウにはない特性があると、山梨大学の奥田徹ワイン科学研究センター教授。優れた耐寒性もそのひとつである。「ブドウは、氷河期(1万年以上前)に北アメリカ、ヨーロッパ、極東の3つの系統に分かれた。山ブドウ系品種はアントシアニンに非常に特徴があり、欧州系品種とまったく異なる色素で構成されている。この色素については研究がほとんどないが、酸化に強く熟成に時間がかかる特性があるのでは、と考えられている。日本固有品種の特性については、さらに研究を進め、”日本らしい”味わいの解明が求められる」と、奥田教授。北海道内で山幸の植樹は年々拡大し、産地ごとの味わいの違いなども、現在進行で研究が進む。また様々なスタイルのワイン造りが行われ、池田町ブドウ・ブドウ酒研究所製造課醸造係長の山岸賢三氏は、スティルワインのほか、スパークリング、ブランデー、アイスワインも池田町で造っていることを伝えた。アイスワインは2005年から造られ「-10℃の朝5時半に凍った山幸を収穫する。パチンコ玉のように凍ったブドウを圧搾すると、非常に粘性のある果汁ができ、Brix50を超えることもある」と山岸氏。

池田町でのアイスワイン用の山幸収穫の様子を伝える池田町ブドウ・ブドウ酒研究所製造課醸造係長の山岸賢三氏(画像はYouTubeの公式配信より)

サミットでは5名の日本固有品種の生産者が登壇し、山幸を含め、日本固有品種の様々な話が交わされた。そのうち90 PLUS WINE CLUB代表のジャック・K・坂崎氏は、カリフォルニアのナパでの甲州のワイン造り事例を示した。「きっかけは2017年の山火事による畑の被害で、焼けた畑に甲州を試験的に接木したところ、1~2年で急成長し、青々とした畑が蘇った。日本の甲州よりも高糖度のBrix20以上のブドウができた」と、坂崎氏。生産本数500本の「KAZUMI NAPA Vallery KOSHU 2021」は「日本の日本食レストランのみならず、現地でも非常に評価され和食、韓国料理に良く合う。今秋、畑をさらに増やす」と言う。

山梨の白百合醸造の次世代を担う若手、内田圭哉常務取締役の話も興味深い。内田氏はブルゴーニュ現地にて栽培醸造の上級免許を取得している。「フランスでは『あなたの家のテロワールはどんなものなのか』と、良く聞かれてきた」と言う内田氏は現在、白百合醸造園内の細かい区分ごとに畑の特性を研究している。そこで内田氏が注目するのは、日本の歴史的・文化的な地名である氏(うじ)だ。「例えば、宮の上はお宮があった地名、つまり周辺より標高があることを示している。氏の単位ごとにテロワールの特性が見出せるのではないか」。日本古来の地理とワインの探求を結びつける、画期的な着眼点だ。

山幸を含め、日本固有品種の研究と日本ワイン造りは年々発展し、産地の活性化に繋がっている。十勝の芽室町のめむろワイナリーは、2020年に創設したまだ新しい醸造所だ。前醸造責任者、廣瀬秀司エノログは、山幸の特性について醸造の現場からの体験を報告した。「山幸の欠点といえば、非常に酸が強いことで、果汁の総酸度は15g/ℓ。だから発酵にはリンゴ酸を消費する酵母を使い、さらにマロラクティック発酵で酸度を下げている。今使っている熟成の樽の相性が山幸と良いかどうかは、今後観察しなければらならない」。

サミットの全体を通して、ヨーロッパ品種にはない日本固有品種のさらなる可能性と研究の重要性が複数の識者から訴えられた。また生食用ブドウの方がワイン用ブドウよりも単価が高い現状など、植樹拡大をめぐる課題点も挙げられた。

北海道では今年4月、北海道大学内に「北海道ワイン教育研究センター」が設立され、さらなる研究強化が期待される。(N. Miyata)

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