ドメーヌ・ガバン&フェリックス・リシュー(イランシー)

昨年、父親のティエリー氏からドメーヌを引き継いだガバン氏。今年の2022年産が11回目の収穫。

 

text&photos by Toshio Matsuura (Paris) 取材協力:ブルゴーニュワイン委員会(BIVB)

世代交代を果たし、ドメーヌ名を改称
ルモンタージュだけのソフトな抽出に

ドメーヌ・ティエリー・リシューは、1979年に父親のドメーヌに加わったティエリー・リシュー氏が隣村出身で幼馴染のコリンヌさんと結婚し、1998年に立ち上げたドメーヌ。ティエリー氏の父方はシトリー村、母方はイランシー村の出身で、栽培農家としての歴史は17世紀までさかのぼる。

2012年に長男のガバン氏、2015年に次男のフェリックス氏がドメーヌに加わり、昨年、ティエリー氏が60歳で引退したのを機に、ドメーヌ名をドメーヌ・ガバン&フェリックス・リシューと改めた。

「長男は31歳、次男は28歳。新しい世代が新しいアイデアでドメーヌを刷新しています。夫と2人で発展させてきたドメーヌを子供たちが継いでくれたとは、私たちにとって素晴らしいことです。」とコリンヌ夫人は満足そうだった。

長男のガバン氏がドメーヌに加わった当時、ブドウ畑は18haだったが、2014年に貸し出していた畑が戻り、耕作面積は21haに増えた。19haがAOCイランシー。そのうち、ヴォペシオ(2.3ha)、レ・カイユ(2.1ha)、パロット(0.8ha)、レ・マズロ(0.2ha)は別々に醸造し、ラベルにリューディ(区画名)を記している。残りがAOCブルゴーニュ・ロゼ(1ha)とクレマン・ド・ブルゴーニュ(1ha)だ。

2010年にオーガニック栽培に移行し、2013年に公式認証を得たが、昨年から認可の申請を出していない。ガバン氏がとくにこだわるのが収穫方法。畑の各区画の成熟度を見極め、全て手で収穫し、木箱に房を入れて醸造所に運び、選果台に8人が張り付き厳密に選別する。100%除梗は父親の代から変わらないが、畑ごとに細かく分けて醸造するようにしたのはガバン氏の考えに基づくもの。自生酵母だけで発酵させ、亜硫酸の使用も最低限に抑えている。キュヴェゾンは通常2週間。以前はピジャージュを繰り返しかなり強めに抽出していたが、ガバン氏の時代になってからよく熟した健全なブドウを使い、ルモンタージュだけのソフトな抽出に切り替えた。

(左)父親のティエリー氏が1990年代に導入した5,000l、6,000l、8,000lのフードルも使用している。(右)イランシーの潜在性を引き出すため、樽を使った長期熟成に挑戦。伝統的な228lのピエスとともに600lのドゥミミュイも使用。

父の時代から醸造後の熟成は長い方だが、ガバン氏は2年から時には3年半の長期熟成を行うこともある。瓶詰前にタンクに移し、約半年間かけて均質化し、フィルターをかけず瓶詰めする。2018年は例外的に収穫量が多かったため一部をステンレスタンクで熟成させたが、2019年以降のAOCイランシーは全てステンレスタンクで発酵させ、小樽で熟成している。228lのピエスが主体だが600lのドゥミミュイや5,000~8,000lのフードルも使う。新樽は多くても10~15%止まり。かつては80%を個人客が占めたが、今は40%にとどまり、輸出が35%に増え、25%がレストランやカヴィストだ。個人客の多くはドメーヌに立ち寄り、試飲して購入すると言う。

●ヴァン・ド・フランス・ロゼ2021オゼ・ド・ロゼ/ピノ・ノワール100%を直接プレスして造ったロゼ。ステンレスタンクを使い、自生酵母だけで発酵。マロラクテック発酵を行い、ステンレスタンクで熟成。2021年産は霜害で収穫率は10hl/ha。ロゼのフレッシュさを保つために赤ワインよりかなり早い時期に収穫する。色が極めて薄いが、しっかりした味わいがある。とくにフィニッシュの塩味を帯びたミネラル感が印象的。年間平均生産量4,000本。ほとんどは常連の個人客用。
●イランシー2018/2018年は霜害があり、その後夏もやや湿った天候だった。収穫率は51hl/haと近年では最も多かったが、十分濃縮していて、色が濃い。またこの年の特徴である黒い果実のニュアンスがはっきり出ている。厳密な選別がピュアな味わいを支えている。樽熟成は2年。畑にセザールの株が何本か残っているが、全体から見るとほとんどゼロ%。
●イランシーヴォペシオ2016/ドメーヌが持つヴォペシオの区画は2ha。小石の多い貧しい土壌で、ヨンヌ川に近く、しばしば霧に覆われる。2016年は8hl/haと2021年と並ぶ低い収穫率。幸い、8、9月の好天で良く熟し、ワインの質は素晴らしい。ワインは繊細で少し硬いが、ピノ・ノワールの赤い果実のニュアンス、とくにイチゴの味わいがはっきり感じられる。2017年産が早く熟成したため先に市場に出して、やや硬い2016年産をその後に販売した。
●イランシーレ・カイユ2015/ドメーヌが所有するレ・カイユの区画は2.1ha。川から吹き上げる風をヴァンスロットの村落が遮り、特別なクリマを作り上げている。ヴォペシオとは少し異なる冷涼なテロワール。よりタニックなワインで構造がしっかりしている。すでに7年を経た2015年産は変化したピノの興味深い香りが出始めている。

 

続きは、WANDS 9月号
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