[後編]日本ワインの未来を見据えて サントリーワインカンパニー

畑の中にある枝垂れ桜の古木と水を祀る石神はそのまま残されている。

山梨県、南アルプス市中野との協働

南アルプス市中野の圃場は、2020年に造成が完成した。サントリーが山梨県と協議し始めたのが2017年。それからおよそ4年で整備が完了。甲州だけを栽培する畑で10haもの広さとなるのは、ほかにまだ例がないのではないだろうか。
「行政の力と地元の理解がなければ、このような大きなプロジェクトはできなかったと思います」と、鈴木氏。山梨県の農政部はいくつかの候補地の中から、南アルプス市の中野を仲介した。「小さな区画が多数ある急傾斜の畑で、高齢化のために耕作放棄地も増加していました。サントリーの『ブドウ栽培をするだけでなく地域そのものの活性化につなげたい』との意志も伝えました」と、同部の参事を務める茂手木知氏は言う。
「『山梨ワイン産地確立推進会議』が『山梨ワイン産地確立推進計画』を策定し、醸造用ブドウの高品質化と安定的な供給等を推進しており、とくに醸造用甲州の生産拡大を重点的に進めているところです。山梨県果樹試験場と山梨県ワイン酒造組合等が連携し、県内で栽培されていた醸造用甲州の8系統のうち、推奨4系統を選抜し、平成30年から毎年約1,000本の苗木供給を続けています」と、果樹・6次産業振興課課長補佐の武井森彦氏。
「中野の棚田は景観が美しく有名ですが、13~17%の斜度があり、石垣が必要なほど急斜面です」と、耕地課の主査野中祐子氏と主任の畑翔弥氏。整地前後の航空写真などで規模の大きさを説明する。地元の取りまとめを担ったのは小野忠氏。中野の棚田を守る活動をしている「ふるさとを錦で飾り隊in中野」会長、「中山間地域中野集落協定」代表、そして「中野圃場整備換地委員会」事務局長など、一手に引き受けている人物だ。

地元の取りまとめを担った 「中野圃場整備換地委員会」事務局長 の小野忠氏。

「1年半かけて、合計98軒、人数にして103名の合意を得ました」と、小野氏。
「戦時中に開墾してサツマイモを育て、その後に桑畑に変わり、さらに果樹栽培をしていた土地です」。しかし、次第に高齢化して果樹栽培を続けているのもわずか数軒になってしまった。そこで委員会を立ち上げて、一軒ずつ「将来はどうするのか?」との問いかけをしていった。「皆、先祖代々の土地を守りたいという気持ちは同じでした。ですからかえって、しっかりとした企業が守ってくれるのなら、と同意してくれました」と言う。土地を売却するのでなく、あくまでも地主としてこのプロジェクトに参加する、という方向で契約が進んだ。これまでサントリー側は、地元の緑化活動にも協力してきた。地元の人たちはブドウの植樹や草刈りを手伝ってきた。
「交流する間に、土壌のこと、土地の成り立ちのことなどたくさん教えてもらいました」と鈴木氏。「自分たちの畑」という意識が強く、この土地を大事に守りたいという想いが伝わってくると言う。すぐ北隣の丘には沢があり、水が引けるので昔から水田があるが、この丘は水に乏しい丘のため稲作はできなかった。果樹も桃、梅、柿などがあったが、日較差が大きくブドウの出来が良いと知っていたためブドウが最も多かったと言う。夏でもクーラーの必要がないそうだ。「ワインはすぐにはできません。でもその分、待ち遠しくもあり楽しみです」と、小野氏は100人余りの声を代弁した。

気象データの蓄積も行っており、24時間いつでもスマートフォンでチェックできる。

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