ProChileがイタタ・ヴァレーのセミナー開催 樹齢100年のパイスほか古木の宝庫

2023年11月14日、チリ大使館商務・農務部(ProChile)が、チリ南部イタタ・ヴァレーの試飲会とセミナーを都内で開催した。セミナー講師は野坂昭彦氏だ。マンダリンオリエンタル東京のシェフソムリエで、2023年8月、第10回全日本最優秀ソムリエコンクールで見事に優勝した。野坂氏は同年6月に現地を単独訪問している。

講師を務めた野坂昭彦氏。

イタタ・ヴァレーは、チリのワイン史を伝える古い産地だ。首都サンティアゴから南へ400km、ニュブレ州イタタ川の流域にブドウ畑が広がる。南はビオビオ州と接し、こちらには古都コンセプシオンがある。500年前、このコンセプシオンから、スペインはイエズス会の入植者たちが、チリにブドウ(パイス種)とワインをもたらしたのだった。
チリの気候は南下するほど降雨量が多くなる。だからイタタは、その上の産地マウレ・ヴァレーよりも雨が降り、森や沼地が広がり、年間降雨量は平均1,100mm。中には2,000mmの場所もあると言う。「日照にも恵まれ、川の恵みで無灌漑でブドウが育つ。イタタは長年脚光を浴びなかったが、今注目すべき産地」と、野坂氏。プレミアムチリの大手が集うアコンカグアやマイポ・ヴァレーとは異なり、イタタの造り手は、畑の総面積が1ha以下の小規模生産者ばかり。小さいからこそ生産者団体がいくつもあって、助け合っている。
主要ブドウ品種はパイス(3,560ha)とモスカテル・デ・アレキサンドリア(3,550ha)。樹齢100年超の古木が根付く希少な産地で、高樹齢のパイスから造られるエレガントな赤は注目に値する。古木のモスカテルは「タイトで酸がしっかりして、アロマティック。世界でも類を見ない個性を持つ」と、野坂氏。さらにカリニャン、サンソー、シャスラ、セミヨンなどの古木もあり、多様性に富む。

この日は生産者もはるばる来日し、自社ワインを紹介。以下に記すのはセミナーで供されたもの。

はるばる来日した生産者たち。

ビノス・コバ セミヨン 2022
産地は海に近いコエレム村のグアリリュエ。120年以上続く畑で、花崗岩土壌、仕立ては自根のブッシュヴァイン。古木のセミヨンはアカシアの花、洋ナシ、ミネラルの香り。アフターで塩味が引き立ち、カニのエンパナーダなどライトミールとともに。

カサ・ヌエバ カバス・マリナス・ピノ・ノワール 2021
寒暖差の大きい大陸性気候で育つピノ・ノワール。「色調も果実味も酸もある、チリらしいピノ」と野坂氏。このワイナリーは2023年にモスカテルやシラーの缶ワインもリリース。それはサステナビリティを考慮して、と生産者のフェリペ・ビンチェイラ氏。

ビノス・マシンティンのディエゴ・ウラ氏。

ビノス・マシンティン マシンティン・サンソー 2021
ワイナリーは2018年に創業。4人の友人が結成した。花崗岩土壌のサンソー。71%は海から23kmの沿岸山脈の畑で、29%はコエレム郊外の北向きの畑。それぞれ1930年、1960年植樹の自根の古木が残っている。熟成はコンクリートタンク、アンフォラ、フレンチオーク古樽を使い分け、11か月。スミレ、カルダモン、クローヴなど、フレッシュで豊かな香り。「クランチーなテクチャーと生き生きとした酸味。チリの郷土料理パステル・デ・チョクロ(トウモロコシのグラタン)に」と、野坂氏。

ビノス・グスタボ・マルティネス クーピン・カリニャン 2022
オーナーのグスタボ・マルティネス氏は、イタタの自治体で働いていたが、2012年から醸造家に転身。このカリニャンは40%カーボニック・マセラシオン、60%が伝統的なピペーニョ製法。ハンズオフのアプローチで、亜硫酸添加は最小限。ブルーベリー、ビターチョコ、ミネラル感もある力強い味わい。このワイナリーの「エル・カルメン・デ・クチャクチャ パイス 2022」は樹齢100年超の古木のパイスで、100%ピペーニョ製法。口当たりはなめらかで、透明感がある。

ビニャ・マンレ インコグニート フィールド・ブレンド 2021
ドイツからチリに移住した醸造家一家がイタタ・ヴァレーで創業した。カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベック、ピノ・ノワールのフィールド・ブレンドで、赤い果実と黒い果実、シナモン、ミルクチョコなど複合的で芳醇な香り。酸とタンニンが溶け込んでバランスが良い。

チリワインの日本への輸入をめぐっては、2023年秋にようやくLCLリーファー便が開通したことで、イタタのような小規模生産の高品質ワインの買い付けが現実的になった。チリワインの市場はこれからさらに楽しくなるだろう。

(N. Miyata)

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