- 2024-11-20
- Wines, スペイン Spain
写真:ビンタエ・グループの輸出マネージャーのリウバ・レトローヴァ氏。
2024年、東京で開催された複数のスペインワインのイベントを通じて、生産者たちの情熱と、スペインワイン専門の輸入元による新たな取り組みに触れる機会を得た。高品質でありながら1万円以下という価格帯に、多くの魅力的なワインを擁するスペイン。その奥深さは、まさに発掘すべき宝庫と言えるだろう。
本稿では、ビエルソの「ボデガス・エステファニア」(輸入元:サス)、「ビンタエ・グループ」(輸入元:アレグレット)、そしてカナリア諸島テネリフェの「ボデガス・ビニャティゴ」(輸入元:サラ・コーポレーション)という、個性豊かな3つの生産者を取り上げ、彼らの哲学とワイン造りに迫ってみたい。
1.ラウル・ペレスが指揮するボデガス・エステファニア
カスティーリャ・イ・レオン州の北西部、ビエルソ。ガリシアとの州境に位置するこの地に、ボデガス・エステファニアは1999年に誕生した。醸造責任者はメンシアの旗手として名を馳せるラウル・ペレスで、2023年にはエステファニアのオーナーに就任した。2024年4月、輸出マネージャーであるエヴァ・ブランコ氏が来日し、輸入元サスの試飲展示会にてそのワインを披露した。
畑は大西洋からわずか2kmの地点に広がる。「ブドウ畑は山中にありながら、潮風の恵みを受け、ワインには独特の塩味が宿る。それが我々の個性」と、ブランコ氏は語る。在来品種のゴデーリョとメンシアを栽培し、とりわけメンシアの古木は最高樹齢120年を誇る。収穫は手摘みで行われ、オーガニック農法を実践している。「オーガニック農法は我々の哲学。自然と動植物との共生を図りつつ、香り高いワインを造ることを何よりも大切にしている」。ワインの名「ティレヌス」は、ビエルソに伝わる古代ローマの山神に由来する。
「ティレヌス・ゴデーリョ」は潮風を感じるピリッとした塩味が特徴的だ。ブランコ氏によれば、ビエルソ全体でゴデーリョの生産量はわずか3%に過ぎないが、2010年頃から国際的に注目を集め、徐々にブドウ畑が増えているという。その生産量の少なさゆえに、高品質で表現力豊かなワイン造りを目指している。
メンシア100%の赤ワインは、ブドウの樹齢や樽での熟成期間ごとにキュヴェが分かれている。「ティレヌス・クリアンサ」は単一畑のワインで、樹齢60~80年のブドウを使用し、樽熟成は12~14か月。鉄分の豊富な土壌の区画で栽培され、干し葡萄のようなドライフルーツの香りと鉄の香り、ミネラル感が際立つ。「ティレヌス・パゴス・デ・ポサダ」は樹齢100年以上の最も古い畑から収穫されたブドウを使用し、100%全房発酵。12~20か月の樽熟成と5年の瓶内熟成を経て、赤い繊細なイチゴの果実味とパウダリーなタンニンが絶妙だ。後味の引き締めも良く、幅広い料理と調和する。
「メンシアもゴデーリョも、古代ローマ人の手でこの地に植えられ、中世にはサンティアゴの巡礼者たちの宿でそのワインが供された。我々はその歴史を敬い、この地に息づくテロワールをワインに込めて伝えたい」と、ブランコ氏は力を込めた。
輸入元:サス
2.スペインを盛り立てるビンタエ・グループ
日本語の“待つ”に由来するDOトロの「ボデガス・マツ」。『WANDS 2024年5・6月号』のドゥエロ流域特集でも取り上げた。「マツ」はビンタエ・グループ傘下の1ワイナリーである。同グループはスペイン全土にじつに10個ものブランドを有する。うち、DOリベラ・デル・ドゥエロの「バルドス」での取り組みについては上記『WANDS』が醸造責任者のラウル・アチャ氏の言葉をもらっているので、ご一読願いたい。
輸入元のアレグレットは、ビンタエ・グループの各ブランドを取り扱う。2024年5月、同社主催の試飲会に出て、グループの輸出マネージャーのリウバ・レトローヴァ氏から、ブランドごと、それぞれの哲学を聴き、目下はどんなプロジェクトにどう注力しているかも知らされた。
ビンタエ・グループは1999年に、リオハで創業した。現在、リオハには3つのブランドをもち、中でも有名なのが「アシエンダ・ロペス・デ・アロ」である。アロ村の顔とも呼べるワイナリーだ。試飲したうち「ロペス・デ・アロ サン・ビセンテ」はリオハ・アラベサ地区でも突出する銘醸地サン・ビセンテ・デ・ラ・ソンシエラ村の産である。テンプラニーリョとマスエロのブレンドで、果実味がフレッシュ。「村には渓谷が二つある。それぞれが地中海性気候と同時に大西洋気候の影響を受け、風が強いが、それが病害を防いでくれる。土壌はおもに粘土質や石灰質で栄養素に乏しいが、ブドウには好適な環境」と、レトローヴァ氏は環境を強調する。
限定生産の「クラシカ・グラン・レセルバ」も披露された。産地のあゆみを今に伝えるための特別なキュヴェで、リオハで重要な歴史的人物をエチケットに採用している。樹齢70年超の古木のテンプラニーリョと90年超のガルナッチャは、フレンチオーク樽で3年熟成し、瓶で4年熟成。2004年は香りが深く、熟した果実とハーブの味わいが優美。
このところ評判の「スペインのガルナッチャ」については、その多様性に注目すべく『WANDS 2024年1・2月号』のBuyer’s Guideでも取り上げたように、ピンタエでも「プロジクト・デ・ガルナッチャ」で5産地で5ガルナッチャを造っている。地域はリオハ、アラゴン(カラタユド、サラゴサ)、カタルーニャ(プリオラート)。「ガルナッチャも北ではフレッシュに、南ではボディがしっかり、など、特性がはっきりしている。同じリオハでも違いが見られる」と、レトローヴァ氏。リオハということでは、醸造責任者アチャ氏の故郷カルドナス村には、樹齢100年超のガルナッチャ畑があり、それが最高のブドウを産んでいるとのこと。
輸入元:アレグレット
3. テネリフェの宝石、ボデガス・ビニャティゴ
スペインワインの秘境として注目を集めているのが、カナリア諸島だ。フィロキセラの侵入を免れたこの地では、200年以上にわたって島固有のブドウ品種が守られてきた。カナリア諸島のワイン産地については、『WANDS 2024年9・10月号』でペドロ・バジェステロスMWが詳しく解説しているので、併せて参照されたい。
2024年6月、テネリフェ島を代表するボデガス・ビニャティゴのオーナー、フアン・ヘスス・メンデス・シベリオ氏が来日した。同社のワインは、2024年からサラ・コーポレーションによって日本市場への導入が始まっている。
ビニャティゴは1990年に創業した。現在、メンデス氏はDOPイスラス・カナリアスの会長として地域のワイン産業を牽引している。20種以上の固有品種から、それぞれの個性を活かしたワインを生産している。
「ヨーロッパの楽園」と呼ばれるカナリア諸島の気候は、ブドウ栽培に独特の影響を及ぼしている。「冬でも10~12℃、夏は25~30℃と、年間を通じて春のような気候が続く。極端な気温差がないため、ブドウはゆっくりと理想的な成熟を遂げる」と、メンデス氏は語る。しかし、標高3,718mのテイデ山が島の中央に聳え立つため、場所によって気候は大きく異なる。とくに降雨量は標高によって変化が著しく、島の南部は乾燥が激しい砂漠地帯でブドウ栽培に適さない一方、北部では湿った空気が停滞し、緑が生い茂る。
メンデス氏の哲学は、できる限り人的介入を抑えたワイン造りにある。畑では除草剤や殺虫剤を一切使用せず、醸造過程では自生酵母による発酵と古樽での熟成にこだわり、固有品種の純粋な個性を引き出している。そうして生まれるワインは、エレガントな飲み口を持ちながら、品種と土壌に由来する赤や黒い果実の繊細な香り、スモーキーなミネラル感、塩味が見事な調和を見せる。
来日に際して披露された中から、ここでは赤の固有品種を3つ紹介する。
「リスタン・ネグロ 2023」は標高300~700mの畑で栽培されたブドウを使用。粘土質と玄武岩を含んだ土壌。フレンチオークの古樽で3か月熟成。タンニンが溶け込んでいてエレガントな飲み心地。火山性土壌を表すスモーキーな香りが特徴だ。
「ビハリエゴ・ネグロ 2022」は島の北西部、標高400~800mの冷涼な畑から収穫される。フレンチオークの古樽で12か月の熟成を経て、完熟した黒い果実の風味にミネラル感と塩味が見事に調和している。
「ネグラモル 2023」は、赤い果実の中にかすかに感じられるスモーキーなニュアンスが印象的で、繊細な味わいはピノ・ノワールを思わせる。実際、ネグラモルは「カナリア諸島のピノ・ノワール」の異名を持つ。
ダイナミックな地形がもたらす多様な土壌と、それぞれの環境に適した品種の研究において、メンデス氏は最先端を行く。火山の島に根付いた古来の品種たちを、現代に蘇らせるビニャティゴの歩みは、今後さらに注目されるに違いない。
輸入元:サラ・コーポレーション
(N. Miyata)
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