テンポス・ベガ・シシリア 長期熟成の哲学を醸造長が語る

個性を見極める
三産地のテンプラニーリョ

降雪が残るアリオンの畑(2024年3月)。

リベラ・デル・ドゥエロの彩

 1993年、ベガ・シシリアは「アリオン」を産み出した。バルブエナ村のベガ・シシリア農園の70ha、醸造所の置かれたパディーリャ村の30ha、ペスケーラ村の30haから生まれる。ドゥエロ川の堆積作用でできた土壌は、栄養分が豊かなので、バランスの良いブドウが育つ。新しい畑のブドウは、樹齢が10年を超えるまでは収穫しない。それは「ウニコ」 の場合と変わらない。
 さらに「アリオン」では、ブルゴス、セゴビア、ソリアの畑で厳選した買いブドウも使う。品種はテンプラニーリョ100%で、リベラ・デル・ドゥエロの多彩な持ち味を引き出す試みだ。
「アリオン」も進化を続けている。従来、熟成は新樽100%だったが、2016年にコンクリートタンク、2020年には大樽を導入した。区画ごとに醸造し、ブドウの個性に合わせて熟成容器を使い分け、12か月熟成。瓶詰め後も18か月熟成させる。その後も20年以上も熟成可能でありながら、早い段階から表現力を発揮する。
 2021年のヴィンテージについて、イトゥリアガ氏は語る。「格別の出来となった。1月には大雪が降った。春は適度な雨に恵まれ、夏は涼しく、昼夜の寒暖差が大きかったので、果皮がパリッとして果実味の豊かなブドウが実った。ワインはゆっくりと育って、バランスがとれ、深みが備わった。記憶に残る良年だ」。

アリオン 2021

ティント・フィノ(テンプラニーリョ)100%。赤い梅やクランベリー、フレッシュハーブの香り。フレッシュな果実味と生き生きとした酸、時間とともに溶け込んでいくタンニン。若々しく、飲み頃は数年後。その後も15年以上の熟成が期待できる。
希望小売価格 20,900円。

トロのエレガンス

 2001年、ベガ・シシリアはトロにワイナリーを設立した。「ピンティア」はローマ時代の遺跡の名に由来し、この遺跡の保存にも寄付を欠かさない。110haの畑が、サン・ロマン村、ペドロサ村、トロ村、モラレス村の各地に広がる。
 ブドウは標高700mの砂地に根を張る。その半分は、フィロキセラの被害を免れた自根の樹だ。
 昔、トロのワインは「あまりにも濃密」と言われていた。
「20年前まではそうだった。トロと言えば、飲むというより食べるような、非常に濃密なワインだった。だが余々に洗練されている。我々は力強さを保ちながらも、飲みやすく楽しめるワインへと改良を重ねてきた」。
 収穫は鮮度と熟度のバランスを見極め、発酵時の抽出も優しく行う。2019年からは熟成容器にアンフォラや花崗岩の卵形タンクを導入した。樽の風味の影響を抑え、タンニンが柔らかくなることにとことんこだわり、滑らかな口当たりを引き出している。
「ピンティア 2020」はその探求の結実だ。
 果実味が冴え、タンニンはエレガントで、力強く豊潤であるとともに、快い味わいだ。
「トロの魅力はフレッシュさと果実味の豊かさにある。リベラやリオハの石灰質土壌のワインほどの長期熟成は必要としないが、10~15年は進化を続ける」とイトゥリアガ氏。

トロの砂質土壌に根を張る自根のテンプラニーリョ。「自根は土壌の特性を台木より直接的に表現する。樽熟成も丁寧に気を遣う」と、イトゥリアガ氏。

ピンティア 2020

ティンタ・デ・トロ(テンプラニーリョ)100%。オーク新樽、ステンレスタンク、アンフォラ、花崗岩の卵形タンクで11か月、瓶で30か月熟成。滑らかで豊かな黒い果実味。カカオ、フェンネル、リコリス、ローストナッツのニュアンス。タンニンは若々しく、余韻は爽やか。
希望小売価格 16,500円。

サン・ビセンテ・デ・ラ・ソンシエラ村の銘醸畑「ラ・カノカ」。「マカン」はこの村の住人の意だ。

山と川、二つのリオハ

 2009年、ベガ・シシリアはボルドーの名門ロートシルト家との合弁で「マカン」を創業した。畑はリオハ・アルタ地区のサン・ビセンテ・デ・ラ・ソンシエラ村を中心に106ha。樹齢50年以上の畑を、時間をかけて買い足した。当初はボルドーに倣い「マカン」をファースト、「マカン・クラシコ」をセカンドと位置付けて造っていたが、「醸造長に就いた時、当主のパブロから相談された」と、イトゥリアガ氏は振り返る。
「マカンにはアイデンティティが欠けている、と。当時、リオハでリベラ・デル・ドゥエロ風のワインを造っていた。リオハの個性がなかった」。
 任された氏は、「リオハ」を出そうと試行錯誤を始めた。「ブドウの新鮮さを保つために収穫時期を早めた。ルモンタージュの回数を減らし、抽出は穏やかな方法に変えた。プレスしたワインをフリーランワインにそのままブレンドせず、品質を分類して個別に熟成させてから求める品質のものだけをブレンドするようにした。樽のニュアンスを軽減するため大樽の使用比率を増やし、現在では2万ℓ樽も用いている」。

 そうして徐々に、標高の異なる二つの個性を引き出すことができた。カンタブリア山脈の高地の「マカン」と、エブロ川沿いの低地の「マカン・クラシコ」。それぞれの土壌に応じて醸造法を変えている。
 “山のリオハ”「マカン」のブドウは高地の段々畑に根を張る。石灰質の土壌では、ブドウは力強く凝縮感があるので、フレンチオーク樽のみで熟成させて洗練させる。この10年、「マカン」を育ててきたイトゥリアガ氏は、2020年は「マカンのエレガンスと資縮感のバランスに誇りを感じた初めての年」と言う。
 “川のリオハ”「マカン・クラシコ」の畑の土壌は主に砂質。ブドウは風味が豊かで、「マカン」より抽出を抑え、一部はアメリカンオーク樽に入れて甘味と果実味を引き出す。2021年もまた出来が上々だ。「涼しさが幸いして、生産性の高い年。果実のバランスが理想的だった」。
 探究を重ね、年ごとに個性が確かになっていく。

マカン 2020

テンプラニーリョ100%。フレンチオーク小樽と大樽で16か月、瓶で28か月熟成。果実味が凝縮し、ダークチェリー、スミレ、スパイス、リコリス、チョコレートの香り。口当たりはビロードのように滑らかで、タンニンは熟し、清涼な酸が全体を引き締める。
希望小売価格 18,700円。

マカン・クラシコ 2021

テンプラニーリョ100%。フレンチとアメリカンオークの小樽、大樽、ステンレスタンクで12か月、瓶で18か月熟成。溌剌とした赤い果実味。瑞々しく、活力に満ちている。ワイルドハーブやシガーボックスの香りとともに余韻が爽快。
希望小売価格 11,000円。

 ベガ・シシリアの挑戦は続く。これまで白ワインはトカイの「オレムス」のみだったが、2024年、ガリシア地方リアス・バイシャスで「デイバ」プロジェクトを興し、アルバリーニョの新たな可能性を探っている。3年間の熟成期間を経て、2027年には機も熱して市場に出る。ベガ・シシリアは銘醸地の個性を丹念に追求する。
「何事も忍耐だ。待ち続ける」が160年間、揺るがない哲学だ。新たな挑戦の中にも確かに息づいている。

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☎03-6732-8600 https://www.fwines.co.jp

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