- 2025-5-5
- Wines, フランス France, ボルドー Bordeaux

「クロ・デュ・クロシェ」という名前のワインをご存知だろうか。1924年にジャン・バティスト・オーディ氏が、ボルドー右岸ポムロールの中心地にある教会にほど近い小さな区画から始めた生産者だ。つまり昨年で100周年を迎えたことになる。徐々に畑を広げて、今では4か所に合計4.6haを所有。
教会に近く標高30mほどにある、ラ・フルール・ペトリュスとラトゥール・ポムロールに近い区画、そしてトロタノワに隣接する区画が最も素晴らしいブドウを生み出しており、平均樹齢は25年だが、1957年植樹のブドウもあるようだ。また、カベルネ・フランにおいては、樹齢100年超でポムロールで最高の古木もあるというから驚く。
100年の歴史における変遷を見ると、創業から1981年までは「科学的な知識はまだ初期段階にあった」という。そして1982年からは故・エミール・ペイノー教授などの尽力により最先端の技術が取り入れ始められ、ボルドーワインが大きく発展したことが伺える。その後1998年から2009年について、1997年までの「クラシックな時代」から「モダンな時代」へと変わった。今では懐かしいパワフルで濃厚な赤ワインが求められた時代が到来したのだ。クロ・デュ・クロシェでも世界の潮流に合わせて「除葉したりグリーンハーヴェストをしたり」して、いかに華やかなスタイルにするかに終始していたようだ。
では、2010年以降は何を目指しているのだろうか。4代目にあたるジャン・バティスト・ブロット氏は、2005年に家業に参画。「チームは、完璧な熟成度、より穏やかな抽出、そして洗練された熟成技術を目指し、緊張感、透明感、そして幽玄さを備えた世界最高級のワインを生産しています」と、記されている。
ちなみに、2010年には醸造設備を一新。2024年ヴィンテージからオーガニック認証を取得している。
現地から送られてきたサンプルは4ヴィンテージ。
2005年、2010年、2016年、2020年。2010年からの変化が香味にどのように現れているのか興味津々で試飲した。ブレンド比率はいずれも、メルロ75%・カベルネ・フラン25%。いわゆるポムロールとは異なり、カベルネ・フランの割合が多い。カベルネ・フランの古木もあるということなので、その影響も面白そうだ。
クロ・デュ・クロシェ 2005
ガーネット色。ナツメグなどのスパイス、なめし革、ドライなチェリーや黒スグリなど、スパイシーで温かみのある上品な熟成香。とても滑らかなアタック。丸みがあり、ふくよかで、酸味もソフト。小粒のタンニンが味わいを引き締め、余韻にフレッシュ感をもたらす。カフェのようなほの苦みのある余韻。
クロ・デュ・クロシェ 2010
わずかにオレンジ混じりのきれいなルビー色。まだ開ききっていない穏やかな香り。熟度の高い黒い果実、チェリーや黒スグリ、ほのかなスパイスが融合。滑らかなアタック、ソフトながらフレッシュなほどよい酸、細やかで豊かなタンニンが生き生きとした味わいを形成。引き締まった味わいで、丸過ぎず重くない。丸々としたポムロールではなく、引き締まったポムロール。パウダリーなタンニンが余韻に残り、若々しい。
クロ・デュ・クロシェ 2016
きれいなルビー色。穏やかで上品な整然とした香り。熟した赤い果実、黒い果実にほんのりとスパイスがアクセントを加える。シルクとベルベットの間ぐらいのテクスチャーを予想させる若々しい香り。滑らかなアタック。酸はソフトで、テクスチャーの滑らかさが際立つ。パウダリーなタンニンはどのヴィンテージにも共通しているが、細やかさが増した。より精密になった印象。丸過ぎずフレッシュな余韻も共通している。
クロ・デュ・クロシェ 2020
きれいなルビー色。ベリー系の果実の香りがきれい。みずみずしく引き締まった小粒のチェリー、ベリー、スグリに、ほんのりとスパイス。果実香に光沢が感じられる。滑らかなアタックでフレッシュさもあり、果実が生き生きとしている。それでもやはり丸過ぎず、重くない。4つのヴィンテージの中でタンニンが最も磨かれている印象。余韻はパウダリーで、ジューシーで、テンションもある。
試飲して、共通項はあるものの年々進化しているように映った。緻密さ、精度が上がっている。何をどう変えたのかは生産者に聞かなければ詳細はわからないが、ブドウの良さを最大限に引き出せるようになったのではないだろうか。派手なタイプではなく、テンションのあるポムロールというのが総合的な印象だった。
もちろん赤身肉系のお料理が食べたくなるけれど、2020年ならカカオニブとベリー入りの甘くないブラックチョコでも合いそう。今後の進化も楽しみにしたい、要注目株だ。
(Y. Nagoshi)
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