インタビュー 大橋健一MW <オーストラリアのシラーズの動向・変遷について>

昨今各国のワインは、かつてブラックバスターズと呼ばれた色が濃く凝縮した果実味が強く重厚なタイプを求めていた反動でもあるかのように、上品でエレガントなスタイルへと流れが移行している。

オーストラリアが誇る品種シラーズにおいても同様に、各地域でエレガントなタイプ、アルコール度数がそれほど高くないワイン、樽をあまり目立たせない銘柄などが出てきている。また、エレガンスを求めてより冷涼な地域でのシラーズの栽培が始まっているようだ。

オーストラリアのワイン事情に明るく、グローバルな視点をもつ大橋建一MWに聞いた。

 

Q: オーストラリアのシラーズにおいて、いつ頃、何をきっかけに求める方向性が変化した、あるいは二分したと考えられるか?

A: オーストラリアでは、1980年代はほとんどアルコール度数が12.5〜13%ぐらいだった。温暖な気候ではあるが、14%以上もの高いアルコール度数は昔からではなかった。昔は、VSPでも葡萄を上にも下にも実らせて、収穫量が高かったからではないかと考えられる。その後、パーカーがフィオロジカルライプネスについて言及し始めた。1990年代後半〜2000年代にかけて、パーカーの影響が大きくなった。

コンサルタントのトニー・ジョーダンのレポートによると、使用したサンプル数は不明だがここ10年ほどでpHが1.0弱下がっている。コンサルタントとして、これは確実な潮流として言えるかと5年ほど前に聞いたことがある。「特に白は確実で、赤もアルコール度数も下がってきている」という答えだった。新たな潮流として既にあったが、日本では長年バロッサのシラーズがオーストラリアの典型だと考えられていたため、エレガント系は少数派だったのだろう。

きっかけは、生産者の世代交代にもあるだろう。今では現地の食事も上品系に移行し、たっぷり食べるというよりは美味しいものを少しという方向性だ。この流れは白が顕著た。白ワインでpH3.25という数値は新世界で一番低いだろう。

ただし、オーストラリアでは特にクオリティワインの生産者はエレガンスを求めているが、市場の85%以上にはたっぷり系のワインが今でもうけている。つまり、エントリーレベルのワインだ。「スウィートレッド」という言葉がある。残糖分が5〜8g/lある赤ワインのことだ。アメリカやオーストラリアでは、こういうワインをバックインボックスでたくさん造っている。

(中略)

Q:19世紀にモンペリエから豪州NSWにやってきたシラーが、暑い気候のもとで拡散し「シラーズ」となった。だから、シラーとシラーズは同じものだと考えられる。しかし、豪州のクール・クライメット・シラーは胡椒の香りもありシラーズとは異なる性格だが、これは「シラーズ」を冷涼地に植えたものか、「シラー」(フランスのクローン)を冷涼地に植えたものか。

A: 1990年代に全く異なる品種ではないか、と言われていたことがあった。しかし実際は、紛れもないフレンチクローンのシラーで、エルミタージュからのクローンが多い。   (編注:次頁のシャプティエ in オーストラリア参照)

(つづく)

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