ボルドー2024年 困難であったが、ボルドーの技術力を証明するヴィンテージ

ジャーナリスト向けの試飲会場として使われた、シテ・デ・ヴァン・ド・ボルドーの建物

 

ボルドー大学醸造学部のアクセル・マルシャル教授は、4月11日、シテ・デ・ヴァン・ド・ボルドーで行われた試飲会で講演し、困難な気候条件下で収穫されたこの年のワインの特質について解説した。

マルシャル教授は、2024年を「困難であったが、ボルドーの技術力が証明されたヴィンテージ」と位置づける。全体として期待を上回る結果で、特に消費者の関心を引くワインが生まれていると解説した。そして、例年に比べ、2024年のプリムール試飲に参加した国々の内訳が変化し、ワイン業界への関心の高さは維持されていると語った。

一堂に集められたUGCB2024年ヴィンテージの見本ボトル

 

このヴィンテージの決定的な要素は、気候の特異な推移にある。2023年から2024年の冬は温暖かつ多雨であったが、4月に気温が上昇し乾燥したことで、ブドウの樹の生育は急速に進んだ。しかし、その後は雨が続き、春から夏にかけて湿潤な状態が続いた結果、ベト病が早期に発生した。このため栽培家は生育全期間を通じて、ベト病との継続的な戦いを強いられた。

開花期の湿った天候は未結実を引き起こし、収穫量に影響を与えた。しかし、7月以降、乾燥した温暖な気候が訪れると、ブドウの樹の生育は回復した。

マルシャル教授が指摘するこのヴィンテージの注目点の一つに、「控えめな凝縮度」がある。通常、雨量の多い年は凝縮度が不足しがちだが、2024年は極端に暑い日がなく、これが果実のポテンシャルの維持に貢献した。

その結果、ワインはタンニンが過度に強調されることなく、むしろ味わい深く、みずみずしい果実味があふれている。これは、過去の多雨年に見られた期待外れのワインとは異なる特徴である。教授は、この年の成功が気候条件のみに起因するのではなく、ブドウ栽培家の高度な技量によるところが大きいと強調する。病害管理、的確な収穫時期の判断、特に徹底した選果作業が、ワインの品質に大きく影響を与えた。テロワールの多様性や、各ドメーヌにおける個別の対応も、ワインの個性と複雑性を高める要因となっている。

 

ボルドー大学のアクセル・マルシャル教授(右)とUGCBのフランソワ=グザヴィエ・マロトー会長(左)

 

辛口白ワインについても、2024年は有望なヴィンテージである。芳醇なアロマと生き生きとした酸を持つワインが期待される。特に優れたテロワールからは、適切な熟度と高い凝縮度を備えたワインが生まれている。ただし、赤ワイン同様、白ワインにおいても細やかな配慮が必要であったことは共通認識となっている。

甘口ワインにおいては、春先の湿潤な条件がボトリティス(貴腐菌)の早期発生を促し、秀逸な結果をもたらした。例年のように、同じ畑を何回か収穫することはあまりなく、早い段階で質の高い貴腐ブドウが収穫できた。これにより、純粋でアロマティック、かつ爽やかな酸を備えた甘口ワインが誕生した。

マルシャル教授は、2024年ヴィンテージを理解する上で、「全てを完全に理解しようとしない姿勢も必要である」と言う。気候条件からのみ判断すれば、最終的なワインの特質が予測と異なるように見えるかもしれない。しかし、そこにはブドウ栽培と醸造における複雑な相互作用と、ブドウ栽培家の粘り強い努力から生まれた多くのニュアンスと繊細さが存在する。この年のワインは、ブドウの自然な調和を尊重したアプローチによって、見事にバランスの取れた、個性的なキャラクターを獲得している。控えめな凝縮度は、果実味やフレッシュさを際立たせるポジティブな要素として機能していると教授は言う。

そして、参加したメディア関係者に対して、「このヴィンテージの真価を世界に伝えることは、ワインジャーナリストの重要な役割である。単に“雨の多かった年”として扱うのではなく、その背後にある挑戦、技術的な成功、そしてワインが持つユニークな魅力を丁寧に解説することが求められる。2024年のボルドーワインは、これから長年にわたり、テイスティングにおいて私たちを魅了し続けるポテンシャルを秘めている。それは、逆境を乗り越えた人間の知恵と自然の力が織りなす、複雑かつ魅力的な物語を内包している」と締めくくった。

 

アクセル・マルシャル教授による2024年ヴィンテージの10のポイント

  1. 2023年から2024年の冬は温暖で例外的に雨が多く、日照が少なかったため、芽吹きが遅れた。また雨が多かったためブドウ畑へのアクセスが制限された。
  2. 初期の生育は急速に進んだものの、4月中旬からの寒く雨の多い天候により、生育が大幅に減速した。
  3. 5月も雨が多く、しばしば涼しく、日照も少なかったため、ブドウの生育は遅く不規則なままだった。
  4. 6月も雨が多く、ベト病が蔓延する中、開花が妨げられた。
  5. 夏は比較的乾燥していたが、土壌に水分が多く、色づきは遅く不揃いだった。
  6. 8月末から成熟が始まったが、9月には突然秋が訪れた。
  7. 9月20日頃からの雨により、収穫計画が大きく変更された。
  8. ソーテルヌ地方では、乾燥期と湿潤期の交互の気候がボトリティスの発生を促進し、ブドウの濃縮を実現した。
  9. 赤ワインはフレッシュでフルーティー、優れた土壌からは素晴らしい成功作が見つかる。辛口白ワインは切れのある表現力豊かな出来栄え、貴腐ワインは純粋でバランスの取れた仕上がりとなった。
  10. ブドウ栽培者の努力と技術進歩のおかげで、今年生産されたワインの品質は過去の雨の多いヴィンテージとは比較できないほど良い。辛口白ワインと貴腐ワインは非常に高いレベルのワインを生産できる環境にあった。一方、赤ワインは難しかったが、一律に評価するのは早計だろう。

(photos & text: Toshio Matsuura / Paris)

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