データが語るクレマンの未来:世界スパークリング市場の地殻変動とビジネスの好機

5月15日、ボーヌでクレマン生産者連盟全国総会が開かれた。総会後の講演会でフランス・アグリメール(フランスの食料・農業・漁業製品に関する公的機関France AgriMer)市場調査部門のナンス・ブロシャール氏が登壇し、世界のスパークリングワイン市場に関する包括的な分析結果を発表した。

 

マクロ環境:活況を呈する世界のスパークリングワイン市場

ブロシャール氏が最初に提示したのは、スパークリングワイン市場がいかにダイナミックな成長を遂げているかを示すマクロデータである。2002年から2022年の20年間で、世界のスパークリングワインの生産量は1,927万ヘクトリットルから3,073万ヘクトリットルへと、実に59%もの増加を見せた。これは年平均成長率に換算すると2.3%に相当し、同期間にスティルワイン市場が停滞ないし微減傾向にあることとは対照的である。

この成長を牽引する最大のエンジンは、疑いようもなくイタリア、特にプロセッコである。この20年間の生産増加分のうち、53%はイタリア一によるものであり、その勢いは市場全体の構造を大きく変えた。フランスもこの間、生産量を42%伸ばし、増加分の14%を占めるなど健闘しているが、成長の規模と速度においてはイタリアに後れを取っているのが現状だ。一方、かつての主要生産国であったスペインやドイツは、安定した生産量を維持している。

消費動向に目を向けると、この成長が生産サイドだけの一方的なものではないことが明確になる。世界の総ワイン消費量に占めるスパークリングワインの割合は、2002年の8.4%から2022年には13%以上にまで上昇した。これは5ポイント近い市場シェアの拡大を意味し、消費者が意識的にスティルワインからスパークリングワインへと選択をシフトしていることを示している。スパークリングワインは、もはや特別な祝祭の日のためだけの飲み物ではなく、日常のさまざまなシーンで楽しまれる存在へと確実に変化している。この根本的な消費行動の変化こそが、市場全体の力強い成長を支える基盤となっている。

クレマンの躍進:市場の伸びを凌駕する成長率

このような活況の中で、クレマンはどのような位置を占めているのか。マルシャル氏の分析で最も注目すべき点は、クレマンが市場全体の成長を上回るパフォーマンスを見せているという事実である。2010年から2022年にかけて、クレマンの生産量は44%増加した。これは年平均成長率で+3.1%に相当し、同期間のスパークリングワイン市場全体の平均成長率+2.3%を大きく上回る。

現在、クレマンの生産量は年間約81万ヘクトリットルであり、これは世界のスパークリングワイン生産全体の3%未満に過ぎない。しかし、重要なのは、その圧倒的な成長ダイナミズムだ。この力強い成長は、品質と価格のバランスに優れた選択肢として、クレマンが世界中の消費者に認知され、高く評価されていることの証左だ。

新たな競争環境と挑戦者たち

しかし、クレマンの未来は安泰というわけではない。マルシャル氏は、より競争が激化する市場環境の中で台頭しつつある「挑戦者」たちの存在に警鐘を鳴らした。

一つはアメリカである。過去20年でスパークリングワインの生産量を68%増加させ、特にナパ・ヴァレー産の高品質なスパークリングが市場を牽引している。生産の主流はシャルマ方式(75%)であるが、巨大でダイナミックな国内市場を背景に、その生産能力は無視できないレベルに達している。

そして、クレマンにとってより直接的かつ深刻な競争相手となりうるのが、イギリスである。2002年にはほぼ皆無であったスパークリングワイン生産は、まさに「爆発的」な成長を遂げ、2010年から2022年の間に生産量は5倍に増加した。特筆すべきは、その生産の93%がクレマンと同じ伝統方式(瓶内二次発酵)であること、そしてその価格帯が「シャンパーニュのエントリークラス」に設定されている点だ。これは、まさにプレミアム・クレマンがターゲットとする市場と真っ向から競合することを意味する。イギリス国内市場での存在感を着実に高めているこの新たな高品質プレーヤーの動向は、今後のクレマンの輸出戦略において極めて重要な要素となるだろう。

世界の消費動向と未開拓の可能性

生産がイタリアとフランスに集中しているのとは対照的に、スパークリングワインの消費は地理的により分散している。上位8カ国で消費全体の65%を占めるが、その中にはイタリア、ドイツ、アメリカ、フランスといった巨大市場が含まれる。日本の消費量は年間31.2万ヘクトリットルと、まだ上位には入っていないが着実に存在感を示している。

ここで注目すべきは、主要市場における一人当たりの年間消費量がまだ低い水準にあるという点だ。例えば、アメリカは1.08リットル、スペインは1.66リットルに過ぎない。これは、これらの成熟市場においてさえ、スパークリングワインには依然として大きな成長の余地が残されていることを示唆している。

さらに、新たな高成長市場の出現も見逃せない。韓国(過去20年で+15.7%)、スウェーデン(+10.1%)、ノルウェー(+8.6%)といった国々では、スパークリングワインの消費が急速に拡大している。これは、スパークリングワインの魅力が文化的な背景を超えてグローバルに浸透している証拠であり、クレマンにとっても新たな輸出先を開拓する大きなチャンスとなる。

戦略的ポジショニング:品質と価値の「スイートスポット」

ブロシャール氏が最後に提示した輸出価格に関するデータは、クレマンの戦略的優位性を最も明確に示している。2024年の輸出単価(1リットルあたり)を見ると、市場は明確に3つの階層に分かれている。

  1. プレミアム層:シャンパーニュ(34.63ユーロ)
  2. ミドルレンジ(価値あるプレミアム)層:クレマン(5.99ユーロ)
  3. エントリー/ボリューム層:プロセッコ(4.41ユーロ)、カバ(3.51ユーロ)

クレマンは、シャンパーニュの品質に迫る伝統製法でありながら、はるかに手頃な価格帯という、市場の「スイートスポット」に見事に位置している。さらに興味深いのは、2019年から2024年にかけての価格上昇率である。シャンパーニュが+33%、プロセッコが+10%、カバが+13%と価格を上げる中、クレマンの上昇率は+8%に留まっている。

マルシャル氏は、これを「今後の価格上昇のための余地がある」と分析した。つまり、クレマンは現在、その品質に対して非常に競争力のある価格を維持しており、今後、市場の状況を見ながら段階的に価値を高めていく戦略的な柔軟性を持っているということだ。これは、品質とコストパフォーマンスを両立させたい日本のレストラン、小売店、そして最終消費者にとって、これ以上ない魅力的な提案と言えるだろう。

未来への展望と日本のビジネスへの提言

講演の最後は、クレマンの将来に向けた展望と具体的な提言で締めくくられた。

展望:クレマンは、成長著しいミドルレンジ市場の恩恵を最大限に受けるだろう。この品質と価格帯における直接的な競合はまだ少ない。ドイツ、イギリス、アメリカといった主要市場での知名度が向上しており、今後も力強い成長が見込まれる(年平均3-5%)。

提言:ブランドイメージの構築:プロセッコがグローバルなブランドとして成功したように、「クレマン」という統一された高品質なイメージを、特に海外市場で積極的に構築する必要がある。生産の計画的拡大:増加する需要に応えるため、品質を維持しながら生産量を計画的に増やしていくことが不可欠。安定供給は市場での信頼を築く鍵となる。戦略的な価格設定:現在の競争力を維持しつつ、競合(特にプロセッコ)の動向を注視しながら、その品質に見合った価値を価格に反映させていくことが重要。

結論として、ナンス・マルシャル氏の講演は、世界的なスパークリングワインへの嗜好のシフト、市場を上回る成長率、そして品質と価値を両立させた絶妙なポジショニング。クレマンが持つこうしたストーリーと価値を消費者に伝えていくことは、間違いなく大きなビジネスチャンスに繋がるだろう。

(Toshio Matsuura / Paris)

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