ドライホッピング解禁でフレーバーホップビールの可能性に注目 酒類総合研究所副部門長 日下一尊氏に聞く

今回の酒税改革では、将来的にビール・発泡酒・新ジャンルの税率を一本化する酒税改定と、ビールの定義見直しが行われる。海外で広く認められているドライホッピングが来年4月から新たに認められることとなった。

「ドライホッピング解禁により、フレーバーホップをいかに使いこなすかがこれまで以上に重要」と語る、酒類総合研究所日下一尊(かずたか)氏に話を聞いた。

 

―そもそもドライホッピングとは

通常のビール醸造では、麦汁に酵母を添加して発酵させ、出来上がったビールは一定期間熟成させます。ホップは麦汁を煮沸する最初の段階に添加するのが最も一般的な使い方といえます。ホップの添加には、苦味を引き出すという目的があるので、苦味の抽出には、十分な煮沸の時間が必要だからです。これはケトルホッピングといわれ、主に苦味の強いビターホップが使われます。

これとは別に、煮沸終了の直前にもホップを入れる使い方がレイトホッピングです。こちらは苦味付けというよりは香り付けを目的としており、アロマホップやフレーバーホップを使います。

このレイトホッピングを更に技術的に発展させたのがドライホッピングといえます。

ドライホッピングの定義は諸説ありますが、ビールの主発酵が終わった段階でホップを添加するドライホッピングのほか、伝統的なエールビールなどで広く行われている樽の中で酵母がある程度残っているタイミングでホップを添加するという行為もドライホッピングといえます。

今回のビールの定義見直しでは、主発酵が終わった段階でホップを添加して発酵させると、これまで発泡酒となっていたものを、来年4月からはビールとして認めるというものです。

 

―ドライホッピングの効果とリスクは

ホップの香りには、蒸発しやすい成分と蒸発しにくい成分があります。蒸発しやすい成分はテルペンアルコール類といわれ、主に花の香りとか、フルーツ、シトラスといった香りの特徴があります。従来のホップの使い方である煮沸中にホップを添加すると、これらの香りは蒸発してしまい、ビールにはあまり移らないという問題がありました。

 

これに対し、ドライホッピングでは、煮沸後にホップを添加するのでホップの香り(オイル成分)が非常に効率的にビールに移るという利点があります。ただ、実際にはもう少し複雑といえます。ホップの香りというのは、ビールを実際につくってみれば分かるのですが、花の香りが発酵中にシトラスの香りに変わったりすることがよくあります。これは酵母が代謝することによって、香りの変換が起こるからです。

このため、主発酵中にホップを添加するドライホッピングよりは、主発酵後にホップを添加するドライホッピングの方が、ホップの香りの変化が少ない分、よりホップそのものの香りを引き出しやすいという技術的な利点があるといえます。

一方、いずれのドライホッピングにもリスクが伴います。主発酵後にホップを添加するドライホッピングでは、ホップをたくさん使うと香り成分が増すだけでなく、好ましくない後味にベタっと残るような嫌な苦みが増すからです。

その解決策としては、主発酵中にホップを添加するドライホッピングを活用し、酵母にそうした好ましくない成分をしっかりと吸着させるという方法があります。ただ、この場合は酵母の使い回しはできなくなります。

それとは別に微生物汚染のリスクもあります。従来のホップの使い方では、煮沸によって殺菌されますが、ドライホッピングでは、加熱が終わった後に、ホップを添加するので、そこから微生物汚染が生じるリスクが高まります。このようにドライホッピングはとても難易度の高い技術です。それを使いこなすには高い技術力が求められてくると言えます。

ただ、フレーバーホップの特徴を引き出すのに、ドライホッピングは非常に相性の良い方法だと思います。

 

―フレーバーホップビールの可能性は

酒総研の日下一尊(かずたか)氏

アロマホップの中でも特にホップの品種特性がよく出ているようなホップをフレーバーホップと総称しています。フレーバーホップとして最も古いものでは、IPA によく使われているカスケードCascade があります。さらに2000 年頃から米国、ニュージーランドでいろいろな品種が開発されてきました。フレーバーホップはクラフトビールの世界的な発展とともに増えてきたといえます。

特に近年はこうした世界的な流れにやや乗り遅れていたドイツからも新しいフレーバーホップの品種が開発されています。2012 ~2013 年にはマンダリナババリアMandarina Bavaria、ポラリスPolaris、ハラタウブランHallertau Blanc、ヒュールメロンHuellMelon の4種類がリリースされました。これらは、オレンジやグレープフルーツなどのシトラス系やメロンといったフレーバーホップならではの特徴的な香りを持っています。

2016 年にはカリスタCallista、アリアナ Ariana といった新しい品種もリリースされ、これらはパッションフルーツやベリーといった、先に開発された4品種とは、違う特徴的な香りを持っています。

こういった世界的なフレーバーホップの品種開発によって全く新しい香りのビールというものがどんどん出て来るのではないかと思います。特にこれまでのフレーバーホップはエール系のビールで多く使われてきましたが、例えば、オレンジの香りがするマンダリナババリアがヴァイツェンに使われたりもしています。

つまり、新しいフレーバーホップの登場によって、従来、あまりホップの香りを重視していなかったビールにも使われることでビールの多様化がさらに進むと思われます。

 

-生ホップ、乾燥ホップ、ペレットホップの使い分けも広がりますか

そうですね。ドライホッピングによってホップの香りの特徴がよりダイレクトに引き出せるようになりますので、生ホップ(フレッシュホップ)を使ったドライホッピングも技術的な難易度は高いですが、新しい領域として楽しみな分野といえます。一般的に、ホップとして最もイメージしやすいのが毬花そのものの生ホップです。摘みたてのホップをすぐにビールに使うことで季節感があり、旬を楽しめるという利点があります。

ただ、ホップは収穫後すぐに劣化(酸化)してしまうので、生ホップを乾燥させることで保存性を高めたのが乾燥ホップです。乾燥の工程で香りの成分(オイル成分)は約1割失われますが、ホップの劣化を防ぐのに有効です。ホップは品種や産地、収穫年によっても香りが異なりますが、流通する際や保管中にもホップの香りに変化が生じることが知られています。このため、乾燥ホップは安定した品質のビールをつくる上で、大変重要な役割があると思います。

さらによく使われるものとしては乾燥ホップを粉々にして、ペレット状に固めたペレットホップがあります。かさばらないので使いやすいという利点があります。

代表的なペレットホップには、そのまま固めたタイプ90 と、ポリフェノールを多く含んでいる毬花のふさふさした部分をできるだけ除いたタイプ45 があります。タイプ45 は渋みの少ないクリアなビールをつくるのに有効です。

このように、それぞれのホップにメリットがありますので、醸造家の皆さんはうまく使い分けていくと思います。(A.Horiguchi)

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