有機栽培とバイオダイナミクスが映し出すニュージーランドの個性

ニュージーランドは若いワイン生産国でありまさに新世界のひとつだが、その進化のスピードが速いことも注目される要因のひとつだろう。ニュージーランド・ワインのイメージを数人に尋ねると「ニュージーランドは濃くて香りも圧倒的で、アルコール度数も高そうだと思っていたが、印象が変わってきた」、「ピノ・ノワールについて思うのは、かつてはブルゴーニュを目指していたようだが最近独自のスタイルが出てきたと感じている」といった内容だった。

旧世界のワイン産地でもそうだが、ある産地のワインをアピールするにはその土地独特の何かが備わっていなければ売りにくい時代になってきた。若い生産者たちはフットワークが軽く、ネットワークが広く、情報交換をスピーディーに行う傾向がある。そして自分たちが拠点を置く地域や国のワインをどう打ち出していくべきなのか仲間同士でも話し合っているため、進化が速いのではないだろうか。だからニュージーランドの気になる造り手の情報はこまめにチェックした方が良さそうだ。毎年少しずつ変わっているからだ。

 

ニュージーランドでは環境が整っていることもあり有機栽培やバイオダイナミクスに取り組む生産者が多いことでも知られているが、ラック・コーポレーションの試飲会に参加して味わいにもその影響が現れているように感じられた。

特にブラインドで試飲したわけではないが、一通り試飲した後で自分のコメントを眺めてそう思った。有機栽培やバイオダイナミクスを採用している生産者のワインについては、何かプラスαのニュアンスがあるのに気がついたからだ。果たしてそれが直接栽培方法からの影響を受けているのか、あるいは自然酵母で醗酵しているためなのか、明確なところはわからない。よく言う「有機栽培やバイオダイナミクスの造り手は、ブドウをよく観察しているし仔細にこだわる人だから」というのが大きな理由なのかもしれない。

 

例えば、マールボロの「フロム」、ノース・カンタベリーの「ピラミッド・ヴァレー」、セントラル・オタゴの「リッポン」は、この世界で既に有名なのではないだろうか。そしてこれに続くのがピラミッド・ヴァレーと同じノース・カンタベリーの「ブラック・エステート」だ。

ここの3ヶ所の畑はすべて自社畑となり、2010年からバイオダイナミクスの手法も取り入れた有機栽培に取り組み、2017年3月にBioGroの認証を取得している。中でも、「ネザーウッド」の畑は1986年植樹だから樹齢32年にもなった。この畑のピノ・ノワールは自根で植えられており、ドライ・ファーミングで栽培されている。

「ブラック・エステート」のふたつの単一畑のピノ・ノワールを比べてみると面白い。「ダムスティープ」が上品な果実を表現しているのに対し、「ネザーウッド」はより複雑でテクスチャーが印象的だ。

「ダムスティープ」は75%除梗して70%ホールベリーで4日間低温浸漬してから自然酵母で醗酵しているのに対して、「ネザーウッド」の場合は100%全房醗酵だ(2014年の初ヴィンテージは全房醗酵少量だった。そしてこちらも自然酵母のみ)。醗酵が10〜12日間で28日後に圧搾して3年から10年使用のフレンチオーク樽で12ヶ月熟成し、瓶詰め前にだけ少量の亜硫酸を加えるといった他の工程はそれほど変わらない。

この「ブラック・エステート」は、ニュージーランド・オーガニック・ワイン・アワード2017で “Vineyard of the Year” を受賞した。2017年で4回目となるアワードでまだ規模はそれほど大きくはないようだが、ニュージーランド・ワイン全体の有機栽培への方向性を後押しするために始まった。このブラインド・テイスティングで最も多くの金賞と銀賞を得たのが「ブラック・エステート」なのだ。年々独特なニュアンスが加わってきているからだろう。(Y. Nagoshi)

輸入元:ラック・コーポレーション

トップ画像:ダムスティープ畑。よく見るとニコラスとヴィンヤード・マネージャーの姿が

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