スプリングバレーブルワリーは 今のライフスタイルに合わせた ビールの美味しさと楽しさを体感する場

2015年春、代官山にスプリングバレーブルワリー(以下SVB)東京がオープンした。キリンビールによる体験型ブルワリー併設店舗で、横浜と京都にも前後してオープンしている。今春の発表では年内に3店累計100万人突破を目指しているという。ビールの美味しさ楽しさの発信拠点として注目度の高いSVBについて、マーケティングマネージャーの吉野桜子さんに聞いた。

アンテナショップ的な役割

SVB横浜がおしゃれな居酒屋風、SVB京都が和とクラフトビールの融合を追求する店なのに対し、SVB東京は料理のジャンルも問わない最も自由度が高い店舗のようだ。SVBがオープンするまでは、まるでワインのようにビールと料理との組み合わせを提案する店はなかった。だから「ゼロから考えていくにあたり、独創性のあるシェフの存在が必要だった」。実際に店舗運営を委託した会社、カーディナルと相談し元イタリア料理店のシェフに任せることにした。

「ビールもどんどん新しいものが生まれてくる。そのたびに醸造、厨房、サービス、それぞれの担当者全員で味見を繰り返して組み合わせを考えてきた。3年経過しておよその傾向がわかってきた」。ちょうど今年からキリンビールはタップ・マルシェの扱い店舗を拡充し、既に全47都道府県で2,500店舗を超えたが、それに際してSVBでの検証結果に基づいた料理とのペアリングの提案も行った。消費者にとって面白い体験の場所になっているだけでなく、提供側にとってもアンテナショップ的な役割を果たしているようだ。

例えば昨年の7月には七夕のように、短冊に飲みたいビールを書いて笹に吊るしてもらうアンケートを行った。その後、希望が多かったタイプのビールを実際につくり提供した。客の好みを知る、またリピーターを増やすのにも効果的な試みだ。

ソフトの充実

クラフトビールのファンは、メニューにあるOG(発酵前の麦汁の濃さ)やIBU(苦味単位)などの数値を目安にして選べる。しかし大半の客は「美味しいものを食べたいという目的」で来ているため、知識がなくても選べるようにメニューには多くの工夫がなされている。それぞれ専用グラスに入った画像があり、缶では伝わらない色情報があるため見た目で選ぶこともできる。また、ネーミングにも遊び心が感じられる。

「『496』は造りの段階で究極のバランスをとっているので、あまり泡立てるとスッキリしすぎてしまうのでなるべく泡立てないように。『Copeland』の場合はしっかりした苦味があるので、一度泡に苦味を吸着させて捨ててから、クリーミーな泡で蓋をする」といった、泡についてもそれぞれのビールに合わせたきめ細かいサービスをしている。このような泡へのこだわりは、クラフトビールの先進国といわれるアメリカでも見られない日本ならではのビール文化のようだ。

店内にあるビアインフューザーは、紅茶を入れるような仕組みで、ホップやトマトなどの自然素材の香りや風味をビールに加え(ガス圧をかけながら泡を逃さないようにして)、カスタマイズしたここだけでしか飲めないビールを演出している。

また、東京と横浜では会員組織「CLUB SVB」も発足しており、現在会員数はおよそ500名で、今年から京都でも始めることもあり1,000名まで増えると見込んでいる。会員には頒布会形式でクラフトビールが届けられることに加え、多くの特典が付与される。醸造家と接しながら開発に関わるイベントが用意されていたり、遠野を訪ねホップを摘んだり、同じベースでホップの量や種類が異なるビールを飲み比べる、あるいは開発途中のトライアル品を共に試飲するなどができるなど、クラフトビール好きを惹きつけている。

多様性が求められる中、このようなソフト面での充実が人気の要因のひとつだろう。

 

今の人が今のために

SVBでは定番の他にも多くのクラフトビールが造り続けられ、累計で100種類は超えていると考えられる。中でもヒット作品のひとつが「Daikanyama Sparkling」だ。「ワイン好きの方も、ビールで満足させたい」と考案されたフルーティーなタイプで、好評で店での提供を継続しているだけでなくオンラインショップDRINXでも発売することになった。

このような多くの柔軟なアイデアは、リーダー格を除き皆30歳前後の若いスタッフで構成されるチームがつくってきたものだった。「もちろんいいところもあるが、今までのビールのイメージを変えていきたい。以前ビールは年配男性のテリトリーで、共に食べるものはポテトやから揚げなど茶色い料理が多かった。従来のビール文化のよさに、今の価値観に寄り添う、今のライフスタイルに合わせた提案をしていく」という思いに溢れている。

「どのような飲み方が望まれているのか」を常に考えているようだ。今後も活気のあるビールの現場として期待したい。(Y. Nagoshi)

 

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