カクテルレガシーへ、日本人の技を世界に/ディアジオ社主催のバーテンダー世界大会で総合優勝した金子道人氏

ディアジオ社主催のバーテンダー世界大会「ワールドクラス2015」が南アフリカ・ケープタウンで行われ、日本代表の金子道人氏(LAMP BAR/奈良市)が総合優勝し、世界チャンピオンの栄誉を獲得した。日本人では2011年に大竹学氏(パレスホテル東京)がインド大会で世界チャンピオンになって以来、通算7回の世界大会で2人の日本人チャンピオンが誕生し、日本の技術力の高さを再び世界にアピールする結果となった。世界54カ国、総勢約2万名のバーテンダーの頂点に立った金子氏は34歳。和歌山と奈良のBARで修業を積み、4年前に自身の店をオープンしている。凱旋した金子氏に話を聞いた。

 

ワールドクラスは「Raising the bar」をコンセプトに、バーを通じてお酒の楽しさを広めることで洋酒市場の活性化を目指している。今回、世界大会が行われた南アフリカは昨年のサッカーW杯の開催国。その開幕試合(メキシコ戦)で南アのシフィウェ・チャバララ選手が最初のゴールを決めたのは記憶に新しい。チャバララ選手はアパルトヘイト(人種隔離政策)時代に、ソウェトという恵まれない地域で育ちながらもサッカー選手として世界的に有名となったことで南アでは国民的な英雄だ。金子氏は「ワールドクラスには、グローバルにコミュニティーを繋ぐ、という大きな目的がある。大会期間中、ソウェトのあるヨハネスブルグでは、アイスブレイクチャレンジというチーム競技を行い、仕事に恵まれない若者に、バーテンダーのスキルを身に付けてもらおうとバートレーニングでカクテルの作り方を教える機会があった」という。

スポーツが国民に夢を与える“スポーツレガシー”と同じ発想で、各国代表のバーテンダーも“カクテルレガシー”を強く意識する機会が与えられたことになる。世界チャンピオンになって、金子氏がホテルに戻ると、他国の選手からだけでなく、ホテル関係者からも「Congratulations!」と声を掛けられ、国を超え、職域を超えて応援してくれているのがとても嬉しかったという。

世界大会では合計6種類の競技(チャレンジ)を実施。金子氏は冷静かつ入念な事前準備とユーモアと驚きを兼ね備えた日本人ならではの“おもてなし”のプレゼンテーションが評価され、“WORLD CLASS Bartender of the Year 2015”の称号を勝ち取った。

 

日常的な仕事が“おもてなし”に映る

金子氏に勝因を聞くと「外国人のような大きなパフォーマンスを日本人は得意としない。ただ、お客さまがお店に入って来たら、おしぼりを手渡すとか、チェイサーを出すとか、そういうところからはじまり、仕事の効率性を考える。世界大会でも、例えば液体をこぼしたら、無意識にさっと拭きとるとか、ボトルもラベルを前に向けてきれいに並べるなど、どれも日本人選手にとっては日常的に行っている当たり前なことを、外国人選手はやらないので、そこが評価される。そういうものが外国人には“おもてなし”と映るのだと思う」と答えた。

さらに、「日本のバーテンダーは常に個と個でサービスするのに対し、外国人バーテンダーはバー全体の雰囲気を盛り上げるというか、空間を演出する感じ。世界大会では、2人のジャッジ(審査員)をお客さまに見立てて1杯ずつカクテルを出すので、対個人を相手にする日本のサービスに向いている。ジャッジも究極の顧客体験みたいなものを求めて点数をつけているように思う」と付け加えた。

 

茶道から来る合理性と美しさが魅力

日本人バーテンダーが数々の世界大会で好成績を収める背景には、“おもてなし”と共に、“ジャパニーズバーテンディング”がある。その奥義とは何かを聞くと、金子氏は「茶道から来る合理性と美しさではないか。日本人である私たちはあまり意識していないが、海外のバーテンダーからはTea ceremony について、その所作などをよく質問される。実際に茶道を学ぶために、京都まで行ったという外国人選手もいる。茶道では目線や位置など、型がすべて決まっていて、その所作が美しく見える。しかも合理的で無駄な動きがない。バーテンディングの練習風景をビデオ撮影して、早送り再生すると日本人選手は軸があまりブレないのに対して、外国人選手は踊っているように見える。最近では、外国人選手もこうした日本人選手の動きを真似する傾向がある」という。

これは、白い割烹着姿の日本食料理人や寿司職人のイメージとも重なる。確かに海外ではこれらの職人技と確かな仕事ぶりが、日本人の勤勉なイメージとも合致して、“クールジャパン”といった表現で、一目置かれる存在となっている。

小さい頃は料理人になるのが夢だったという金子氏は、バーテンダーとなった現在も料理は特技の一つという。「料理から得られるカクテルロジックみたいなものがたくさんある。例えば塩の使い方一つとっても、分量だけでなく、使う速度や香りとのマッチングなど、地元奈良の料理人にもよく相談する」

「カクテルをつくる工程で大切にしているのは味覚のロジックとブランドのストーリーを理解すること。それを液体化させるのがバーテンダーの仕事」と説明する。

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