チリワインの品質が正当に認められるために一石を投じた勇敢なる試み「ベルリン・テイスティング」20周年記念

エデュアルド・チャドウィック氏が「ベルリン・テイスティング」を初めて行なったのは2004年のこと。その勇敢な行動から20周年を迎えたのを記念し、特別なテイスティングが開催された。その副題は「チリのテロワールの可能性を解き放つ」。

確かに20年前には日本にもチリワインが輸入されていたが、まだ「安くておいしい」イメージしかなく、「チリカベ」などと呼ばれていた。プレミアムクラスの銘柄も入ってきていたが、熟成可能性や品質について正当に評価されていたとは言い難い。それは他国でも同様であったと思われる。

「ベルリン・テイスティング」により、チャドウィック・グループによるチリのプレミアムワインが各国の有名な「偉大なワイン」たちと肩を並べて評価されたことで、世界中に驚きを与えたのは紛れもない事実だ。

エデュアルド・チャドウィック氏は、「ベルリン・テイスティング」でも供されたフラッグシップの銘柄の複数ヴィンテージを披露した。ただし、今回はブラインド・テイスティングではなかった。その理由は、20年経過してすでにそれぞれの品質が世界で正当に評価されるようになったからだ。そして、現地にも足を運びこの20周年記念テイスティングに供するヴィンテージを供に選んだ田崎真也氏もコメントや解説を行った。その内容をかいつまんで記す。(トップ画像は、左からエデュアルド・チャドウィック氏、四女でともに仕事をするアレハンドラ氏。ホスト役を務めた菊間千乃氏、田崎真也氏)

 

 

<ドン・マキシミアーノ・ファウンダーズ・リザーヴ>

1870年に創業したマキシミアーノ・エラスリス、敬称「ドン・マキシミアーノ」の名を冠した、「ヴィーニャ・エラスリス」のフラッグシップでカベルネ・ソーヴィニヨン主体のブレンド。「ヴィーニャ・エラスリス」があるアコンカグア・ヴァレーは、東には西半球で最も高いアコンカグア山(6,966m)を抱え、まさにアコンカグア川に沿ってブドウ畑が拓かれている。冷たい太平洋まで開かれた渓谷であるため、地中海性気候で晴天が多く降水量が少ないが、暑くても涼しい風が吹き抜ける。この特別なキュヴェに使用される畑は3つだけ。

1984年

「最初のヴィンテージでカベルネ・ソーヴィニヨン100%。現在のような最先端の設備は整っておらず、熟成に使用した樽も地元のラウリ材の大樽だった」と、エデュアルド氏。

「アルコール度数(12.5%)からすると成熟度が他とは異なるが、アコンカグア・ヴァレーは太陽の位置が高く真上にあるため、紫外線が強くストレスを感じてブドウの果皮が通常よりも厚くなりブドウの色素が濃くなる。2021年とはスタイルが異なるが、歴史を感じてもらうためにこのヴィンテージを選んだ」と、田崎氏。

2005年

2005年ヴィンテージは、2008年と2009年の北京、アムステルダム、ストックホルムで開催された「ベルリン・テイスティング」、いずれにおいても第1位に選ばれている。この年は冷涼な気候だったという。

「高いパーカーポイントを取ろうと思って造った、とワインメーカーのフランシスコ・ベッティグが語っていた」と、エデュアルド氏は笑う。

「まさに果実の熟度がチリの象徴にもなってきた時代。余韻まで長くリッチな印象で、この時代を反映している。もちろんまだこの先も長く楽しめる」と、田崎氏。

2021年

2021年はパーフェクトなヴィンテージで、冬の間に十分雨が降り、春は涼しくて、夏はドライで暑かったという。

「2008年までは100%新樽で20か月熟成していた。2011年頃から収穫のタイミングや収穫の準備に対する考え方が変わったと現地で聞いた。2011年から除葉や灌漑の考え方を変え、糖分の上昇を遅くし酸をなるべく高く保ち、収穫時期を遅くすることで糖と酸のバランスが変わった」と、田崎氏。

「当初は評論家を驚かせたいという気持ちもあった。しかし2010年以降はチリでも世界クラスのワインが造れると認められたこともあり、よりブルゴーニュのようなテロワールを表現する方向へシフトした。特に2021年はとてもよく畑の状態を表すことができていると考えている」と、エデュアルド氏。

 

<セーニャ>

セーニャの畑の土壌。

このプロジェクトの始まりとなったパートナーの故・ロバート・モンダヴィ氏がチリを訪れた1991年は、チリワインの輸出が始まったばかりの頃だった。チリもナパ・ヴァレーのように世界で認識されるようにしたい。エデュアルド氏はそう考えていた。

「4年間、このプロジェクトのための畑を探し続けた。オークヴィルと類似性のある条件がアコンカグアにあった。海に近いと冷涼でエレガントなワインに良い。内陸に入ると温かく、ドン・マキシミリアーノのようにリッチになる。セーニャはその間に位置し、カベルネ・ソーヴィニヨンも成熟するがエレガントに育つ。海からの風も山からの風も入り込み、十分な日照量も得られる。ここではバイオダイナミック農法を行っている」と、エデュアルド氏。

「セーニャ」はボルドーブレンドでありながら、カルメネールとマルベック(2012年から)もブレンドしていることで、チリのアイコン的存在でもある。

1998年

エル・ニーニョの影響により冷涼で降雨量も多かった年。

「セーニャの畑は1998年から植樹開始のため、このヴィンテージはアコンカグアにあるいくつかの区画からセレクトしたブドウを使用している。醸造のために数年間ティム・モンダヴィも来ていた」とエデュアルド氏。

「複雑性が感じられる。樹脂、スパイス、タバコなどがバランスよく感じられる。その後にプルーンを種ごと口に入れているような感覚も。酸とのバランスがよく取れ、膨らみの中にタンニンがよく溶け込んでいる。中盤から後半に苦味がコクを与える。余韻に樹脂やスパイスの香りが持続する」と、田崎氏。

2008年

バイオダイナミック農法に使うプレパラシオンをセーニャのワイナリー内で作っている。

冷涼な気候で、長くてドライなヴィンテージ。

「味わいでは酸とのバランスがよく取れていることから、ドン・マキシミアーノよりも少し海よりで涼しい場所であることを反映している」と、田崎氏。

2018年

バランス良い素晴らしいヴィンテージ。ゆっくりと成熟したエレガントで偉大な年。

「最も素晴らしいヴィンテージなので、どうしても今回のテイスティングに加えたかった」と、田崎氏。

「2012年からマルベックが加わっている。カルメネールもそうだが、フィロキセラ前にボルドーから入ってきたボルドー品種が、チリではとてもよく育ち残っている。アコンカグアならではの理想的なブレンドではないかと思う。ブレンド比率なども知らずに試飲すると、カベルネ・ソーヴィニヨンを芳醇に仕上げているという印象を受けるはず。樹齢も高くなってきていることも含め、カベルネ・ソーヴィニヨンの偉大さをこのヴィンテージに感じた。セーニャの理想的な姿ではないだろうか」と、田崎氏は絶賛した。

2021年

「2021年は2018年よりもさらに完成度の高いブレンド」と、田崎氏。

「カベルネ・ソーヴィニヨンがバックボーンを形成し、カルメネールとマルベックがフレッシュさなど、それぞれのプラスの要素を与えて良いブレンドになったと感じている。毎年世界的に有名な評論家もチリを訪ねてきてくれて、各国で認知度も上がり大変嬉しい」と、エデュアルド氏。

 

<K A I>

カルメネールはチリを代表するブドウ品種で、カルメネールを主体とした「カイ」は、2006年ヴィンテージから。こちらもアコンカグア・ヴァレーの畑から生まれる。初ヴィンテージの「カイ」は、2010年にニューヨークで開催された「ベルリン・テイスティング」で第1位を勝ち取った。

「カルメネールの栽培には土壌が適切である必要がある。そうでなければ未熟で青い香りが出てしまう。粘土が必要なため、ローム粘土質土壌の畑に植樹した」と、エデュアルド氏。

2010年

「寒いヴィンテージ。2016年と同様に2010年はとても寒くてドライな年で収穫が遅くなった。アコンカグアは5月から6月まで雨が降らないので収穫を待つことができる。それが複雑さへとつながる」と、エデュアルド氏。

「2006年当初はアメリカンオークも使い新樽100%で熟成させていたが、2010年はフレンチークの新樽100%。カルメネールとすぐにわかる山椒の木の芽のような香り。それと調和の取れた果実や野薔薇の香りも。フレッシュな酸が14.5%のアルコール度数を感じさせない」と、田崎氏。

2015年

2015年は冬は寒く夏はドライで暑く、バランス良いヴィンテージ。

「果実の芳醇さや凝縮感があり、わずかなローズマリーのような印象がフレッシュ感を与える。クローヴやナツメグなどのスパイス香が果実の香りに融合し、凝縮したスミレがより華やかな香りを演出している。酸とバランスの良く、タンニンの熟度も高い」と、田崎氏。

2021年

「この10年で最も良い出来。2018年よりも良かった」と、エデュアルド氏。

「香りのハーモニーも味わいの完成度も、もうひとまわり豊かに感じられ、タンニンの成熟度がさらに増している。やはり完成度が高い」と、田崎氏。

<ヴィニェド・チャドウィック>

エデュアルド氏の父ドン・アルフォンソ氏がポロで勝ち取った数多くのトロフィー。

「父はワインだけでなくポロに執心していた。公式な大会で19回も優勝するほどの腕前で」と、エデュアルド氏は懐かしそうに語る。

マイポ・ヴァレーの中でもアンデス山脈に近いプエンテ・アルトに、エデュアルド氏の父ドン・アルフォンソは1942年に300haものエステートとブドウ畑を購入した。自宅もあった場所だ。しかし、日本でいう農地改革のような制度により土地を売却しなければならなくなり、手元に残ったのは25ha。ここに父がポロ競技場を設置していたが、エデュアルド氏は晩年の父を説得し1992年についに15haをカベルネ・ソーヴィニヨンの畑に転換した。古い河岸段丘にある標高650mの地で、大きな石や砂利が多い水はけに優れた土壌だ。今ではこのプエンテ・アルトは、「チリのグラン・クリュ」と呼ぶに値すると言われている。

「アンデス山脈の麓にあって、山からの影響だけで海からの影響はない。カベルネ・ソーヴィニヨンに最適な水はけの良い土壌、地中海性気候や日較差の大きさなどから、ナチュラルバランスが良く、ブドウが健全に育つことができる。とてもユニークな場所」と、エデュアルド氏。

ヴィニェド・チャドウィックの畑の土壌。

1940年代にもカベルネ・ソーヴィニヨンは栽培されていたようだ。しかし当時は収穫量も少なく、ワインの輸出もままならないといった環境であったため、この土地でのブドウ栽培には積極的にならなかったという。

では、「ドン・マキシミアーノ」や「セーニャ」が生まれるアコンカグア・ヴァレーとは何が違うのだろうか。

「マイポは砂利・小石・大きな石が豊かな土壌で水はけが良く、山の影響が大きい。海からすぐの場所に高い山があることとマイポ川は河川の幅がとても狭くて小川のような感じのため、プエンテ・アルトは海風の影響がほとんどない。一方でアコンカグアは、火山性土壌で粘土質もあり、海から冷涼な風が川を通して上ってくるのでその影響が大きく冷涼。海岸から山麓まで様々な気候帯があると言える。海岸寄りのアコンカグア・コスタは冷涼でピサーラ(スレート)土壌で、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラーに適している」と、エデュアルド氏は説明した。

2000年

2004年のベルリン・テイスティングで、見事第1位に輝いたワイン。カベルネ・ソーヴィニヨン100%。

「1992年に植樹したので当時はまだ樹齢9年。気候的には寒かった年で、チリでもこんなにフィネスあるワインができるのかと驚かれた」と、エデュアルド氏。

「タバコ、シガー、樹脂、ドライフルーツ、ドライフラワーが香る。「ドン・マキシミアーノ」や「セーニャ」とは異なる、フレッシュな酸味を後半に感じる」と、田崎氏。

2014年

「チリでは珍しく霜害があり困難な年だったが、その後は暖かくドライな春と夏を迎えた。その結果、収穫量は半分だったが、エレガントなワインが生まれた」と、エデュアルド氏。

「2014年にはフレッシュ感を感じる、2000年に通じる果実味やバランス、タンニンの成熟度が感じられるが、余韻にはさらにフレッシュ感がある」と、田崎氏。

2021年

「どの季節も順調だった年。冬は雨が多くて寒く、春は順調に萌芽して、成熟は一貫して同時に進行。フェノリックの成熟も十分だった」と、エデュアルド氏。

「20年の進化を感じるワイン。まるでクラシックなカベルネ・ソーヴィニヨン主体のボルドーを思わせる。ヴィニェド・チャドウィックにおいても2021年は完成系なのではないかと思う。バランス、タンニンの熟度が素晴らしい」と、田崎氏。栽培や収穫によるフェノールの成熟度の高さ、またそれを引き出す醸造の組み合わせがパーフェクトだと絶賛した。

 

すべてのテイスティングを終えて、エデュアルド・チャドウィック氏とそのチームの功績に改めて感動した。チリで偉大なワインが生まれることを証明し、チリワインの認知度を上げた時代がある。そしてチリワインの熟成可能性、チリワイン独自の個性、さらにはチリでしか生み出せないエレガンスを伝え続けている。

(当日phots by Y. Komatsu / text & 現地photos: Y. Nagoshi)

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