【シャブリ探求】1815年創業の老舗、ドメーヌ・ビヨー・シモンの2022年を比較試飲!

@Billaud Simon

1815年創業のドメーヌ・ビヨー・シモンは、約17haの自社畑を所有している。その畑はプティ・シャブリ用からグラン・クリュに至るまで、全て中心部であるシャブリ村に位置しているというのも老舗ならでは。そしてブドウの平均樹齢は45年と古い。長年丹念にブドウの手入れをしてきた証とも言える。

4つの特級畑は、レ・クロ、ヴォデジール、プルーズ、ブランショに所有。

4つの1級畑は、右岸のモンテ・ド・トネール、フルショーム、モン・ド・ミリュー、そして左岸のヴァイヨン。

そして、「テット・ドール」と名付けられた AOCシャブリの上級キュヴェは、1級畑や特級畑に隣接する優良な区画から収穫されたブドウをブレンドして造られているというので、その場所を現地に問い合わせてみると、右岸の1級畑「モンテ・ド・トネール」のクリマ周辺に位置しているという。

今回ビヨー・シモンの2022年を5種類「シャブリ」、「シャブリ テット・ドール」、1級畑の「ヴァイヨン」、「モンテ・ド・トネール」、特級畑の「ヴォーデジール」を比較試飲した。

<2022年の気候・収穫>

2022年の冬は比較的穏やかで平均的な降雨量。4月初旬には霜(-4℃)が降りたものの、幸いにもブドウに被害はなかった。4月初旬に発芽し、5月20日頃に開花。6月の気温の幅は大きく、前半は非常に寒く、中旬は乾燥して暖かかったため、開花期間が長引いた。7月下旬に20mmの降雨があった以外は、夏は非常に暑く乾燥。8月16日に15mmの降雨があり、ブドウは良好な状態で熟すことができた。

収穫は9月1日に
始まり9日間かけて、34区画のブドウを30名で行なった。1級畑の「ヴァイヨン」、「フルショーム」、そして「ヴォーロラン」から開始。その後、特級畑の「ブランショ」、「プルーズ」、そして「レ・クロ」へと移り、続いて1級畑の「モンテー・ド・トネール」も収穫しました。特級畑の「ヴォデージール」は7日目に収穫。9月9日には、1級畑の「モン・ド・ミリュー」とシャブリ・ヴィラージュで収穫を終えた。
9月2日、3日、7日、8日、9日には雨が降ったものの全体的には収穫期間中の天候は良好で、これによりブドウの果皮が柔らかくなり果汁の抽出が容易になった。健康状態も最適で、収穫量も十分だった。(2022年の注釈:オーガニック農法に完全に則った栽培シーズンを経て、2022年7月18日に正式にオーガニック転換を申請)。

栽培と醸造を統括するオリヴィエ・バイィ氏。@Billaud Simon

 

<醸造・熟成>

シャブリは世界で最も有名な白ブドウ品種、シャルドネ100%から造られる。しかしシャブリは世界中で造られる他のシャルドネ100%のワインとは明確に異なる、独特の香味や風味を持ち合わせている。この「シャブリらしさ」を表現するために、醸造や熟成において工夫している点があれば教えてほしい、とリクエストしたところ、次のような回答が届いた。

「大きな質問ですね。私たちは常に直面しているヴィンテージの特徴に合わせて手法やプロセスを適応させている、というのが正直な回答です。しかし、発酵プロセスはそれほど変わりませんが、熟成は確実に異なります。1級と特級は、果汁の5%から20%をオーク樽(新樽は使用しない)で熟成させます。残りの部分はステンレススティールで熟成させます。オーク樽で熟成させる部分は、フュイエット(136ℓ)から小樽、ドゥミ・ミュイ(編注:通常約600ℓ)まで、異なる容量で熟成させます。ヴィンテージの特徴に応じて、ミネラル感、酸味、複雑なアロマ、フレッシュさといったこの地方独特のDNAを維持するために、オーク樽での熟成の割合を多少増減させることもあります。ヴィラージュ・キュヴェに関しては、テット・ドール・キュヴェのみを最大25%までオーク樽で熟成させます。新樽は使用せず、小樽とドゥミ・ミュイをブレンドします。シャブリ・ヴィラージュとプティ・シャブリは、すべてステンレススティールタンクで熟成させます」。

ちなみに醸造は、選果後に空気圧式プレスで圧搾し一晩デブルバージュして、ステンレスタンクあるいは樽で発酵。マロラクティックは自然に行っている。また、熟成期間はプティ・シャブリとシャブリで12か月、それ以上は15か月。1級の熟成は1〜3年使用した樽、特級には2〜5年使用した樽。複数の容量の樽を毎年の出来に合わせ、使い分けているとわかる。

<シャブリとテット・ドール>

村名のシャブリは、複数の村(20の村にまたがり、総栽培面積は3,710ha)をカバーしている。大橋建一MW著の「シャブリ 日本のワイン市場を俯瞰する」(WANDS刊)には、このようなくだりがある(第7章 シャブリの村とクリマ 村ごとに違った個性を見せるAOP「シャブリ」 P91)。

【例えば中心部のシャブリ村は、古くからの区画を多く有し、古木も多く、最も気温が高いため、収穫はたいてい最初に始まる。西のはずれに位置するベーヌ村は狭い渓谷で、シャブリ地区の中でも収穫が遅い。かなり東に位置するベリュ村や……】

つまり、ラベルに”Chablis”と記されていても、どこの村のブドウを使用しているのか、単体の村のブドウだけなのか、複数の村のブドウをブレンドしているのかにより、その個性は異なるということになる。

そこで、ドメーヌ・ビヨー・シモンに「シャブリ」様の畑の場所を尋ねたところ、上にも記したように「約17haの全ての畑はシャブリ村にある」という。つまり、最も条件の揃った場所に畑を有している。さすが老舗!

シャブリ 2022

試飲すると、ミツリンゴや柑橘類などピュアな果実の香りがはつらつとして、ほのかにミラベルのようなストーンフルーツも感じられる。しなやかなアタックで一体感のあるテクスチャー、そして次第にフレッシュな酸とミネラル感が現れる。余韻はミネラリーでとてもフレッシュ。清々しい塩レモン的余韻は、鋭角的ではなく、マイヤーレモンのような印象だ。

(合計3.17ha)

テット・ドール 2022

上級のシャブリを試飲すると、香りには光沢が感じられる。ミツリンゴや柑橘類がさらにピュアに表現されている。しなやかなアタックで始まり、果実・酸・ミネラルのバランスが素晴らしい。今すでにおいしく飲みはじめられる。こちらも次第に酸とミネラルが増すが、それに均衡する果実がある。余韻はミネラリーで、実にピュア。レモンというより、日向夏的な柑橘を思い起こす。テクスチャーが心地良く、誰にでも勧められる。

合計2.83haの畑は、冒頭にも記したように右岸の1級畑「モンテ・ド・トネール」のクリマ周辺に位置しているという。

「テット・ドールには、バ・ド・シャプロ、アラニェ、レパルグ、ヴォーヴィリエンの4つの異なる区画があります。そのうち3つの区画は毎年最終ブレンドに使用され、ヴォーヴィリエンは暖かい年のみに使用されます。いずれも「モンテ・ド・トネール」のクリマ周辺に位置し、土壌には白粘土が含まれているため、ワインに素晴らしいミネラル感と洗練された味わいを与えています」と教えてくれた。

<1級畑、左岸のヴァイヨンと右岸のモンテ・ド・トネール>

シャブリには1級畑が40ある。シャブリ村を流れるスラン川の右岸には16、左岸には24のクリマが存在する。

【そのうち17がフラッグシップとなるクリマで、残りの23のクリマから生まれるワインは、自身のクリマ名を名乗ることも、より知名度の高い、近隣お設定されているフラッグシップのクリマ名を名乗ることも認められている。】(大橋建一MW著「シャブリ 日本のワイン市場を俯瞰する」(WANDS刊)の第7章 シャブリの村とクリマ P96)

ヴァイヨン 2022

ヴァイヨンは、左岸で最初に1級に認可された最初のクリマの一つ。さて、ドメーヌ・ビヨー・シモンが所有している畑は、ヴァイヨンとその周辺のどのクリマにあるのだろう。その答えは、こちら。

「シャタン/ Châtainsに2区画、メリノ/ Mélinotsに1区画、ロンシエール/ Roncièresに1区画、セシェ/ Sécherに2区画。合計2.95ha」

それぞれのクリマの微細な特徴の違いは、大橋建一MW著「シャブリ 日本のワイン市場を俯瞰する」(WANDS刊)の第7章 シャブリの村とクリマ P102をご参考に。

「この地域の粘土質の土壌のおかげで、より丸みのある1級です。若いうちから親しみやすく、素晴らしい花の芳香を表現しています」とのコメントは現地より。

香りの強度が上がり、ミツリンゴや柑橘に加え、白い花のアロマが真っ直ぐに立ち上る。やはりとてもピュア。しなやかなアタックで芯のある味わいには、一段とミネラル感が増して骨太になった印象。果実味も酸味もミネラル感も、味わいの要素が増す。エレガントでありながら力もあり、バランスが素晴らしい。

モンテ・ド・トネール 2022

モンテ・ド・トネールは右岸の1級畑で、特級畑のレ・クロやブランショの対岸に位置している。「シャブリ 日本のワイン市場を俯瞰する」(WANDS刊)の説明によれば(P100)、

【緩やかな斜面で西向きのため……ブドウが成熟しやすい。……このクリマはシャブリの最高の要素を備えているともいえる。加えて、驚くほどの熟成ポテンシャルがあり、10〜15年経過すると桁違いの複雑性と傑出したミネラルのストラクチャーに衝撃を受ける。】

こちらもドメーヌに畑の位置を確認した。

「私たちのブドウ畑は、モンテ・ド・トネール/ Montée de Tonnerre、シャプロ/ Chaplot、ピエ・ダルー/ Pied d’Aloupに位置しています。 ピエ・ダルーの畑は最も樹齢が高く、約90年です。白粘土質の土壌で、ワインに素晴らしいミネラル感と、最後に心地よい苦味をもたらします。若い間はヴァイヨンほどは目立ちません。合計2.15ha」。

さて、試飲すると香りはソフトに感じられる。ピュアな白い果実の熟度が上がり、ミツリンゴと少し硬いストーンフルーツ、白い花が香る。なめらかなアタックでふくよかさも感じられ、弾力のあるテクスチャー。しかし骨格もしっかりとして、酸は果実に包まれているが、余韻は実にミネラリー。さらに力が増し、勢いのあるエネルギーが感じられる。

<特級畑のヴォーデジール>

ヴォーデジール 2022

ヴォーデジールは合計15.4haの特級畑で、すり鉢状の斜面。

【地勢的に2つのスタイルを見せる。北向き斜面は気温が低く、……。一方、南向き斜面は斜度が4050%にも及び、馬蹄形になっており日照量が多い……。】

ドメーヌ・ビヨー・シモンは、このクリマに3区画を所有しているという。

「北東向きの2つの区画は、非常に遅い時期に収穫され、区画ごとに醸造・熟成します。南東向きの1区画は、より早く収穫され細かなロットで別々に醸造・熟成します。そして熟成の最終段階でブレンドすることで、必要に応じてフレッシュさをどのように表現するかなど、バランスを取ることができます。合計0.49ha」。異なる位置に区画を所有していることが、ヴィンテージの特徴などに合わせて最終ブレンドを決められる利点になっている。

試飲すると、香りの強度はさらに増し、少しスパイスの要素も見られ、熟したリンゴ、ミラベル、柑橘類、白い花のアロマが香る。なめらかなアタックで全体にふくよかに感じられる。アルコール度数を確認すると12.5%だが、厚みが感じられストラクチャーもしっかりした骨太タイプ。筋肉はあるが脂肪はないイメージで、ミネラルの芯が強いのでまだ数年待ちたい。

200年以上の歴史あるドメーヌ・ビヨー・シモンは、実にシャブリらしいワインを一切の妥協なく造り続けている。また、ブドウをゆっくりと成熟させ収穫をできる限り遅めにしているという。このブドウの熟度がシャブリらしい骨格やミネラル感、フレッシュな酸との秀逸なバランスを取っているに違いないと感じた。また、大橋建一MW著「シャブリ 日本のワイン市場を俯瞰する」(WANDS刊)で畑の場所や特徴を確認しながら比較試飲すると、シャブリの奥深さを確認でき実に面白い。この書籍を傍に、ドメーヌ・ビヨー・シモンの水平試飲をしてみてはいかがだろうか。もちろんこの著書の中でもドメーヌ・ビヨー・シモンが登場する。

<おまけ:2024年収穫>

2024年の収穫について聞くと、以下のような説明だった。

「2024年の冬は雨が多く穏やかでした。春が訪れると、ブドウ畑に大きな影響を及ぼす2つの気象現象が発生しました。4月中旬に霜が降り、そのわずか10日後の5月1日にはひどい雹の嵐に見舞われました。栽培チームはこの困難な時期に素晴らしい対応を見せましたが、特に被害が大きかったのは、プルーズ、フルショーム、ヴァイヨン、そしてシャブリ・ヴィラージュのいくつかの区画で、収穫量は30%から90%減少しました。 発芽は4月10日に始まり、開花は6月25日頃でした。 5月、6月、7月は平均を大きく上回る降雨量となりました。 幸い8月は乾燥した晴天が続き、ブドウの成熟に役立ちました」。

ブルゴーニュワイン委員会からの速報と合わせると、最終的に、収穫量は少ないが8月の好天により質の良いワインに仕上がり「風味豊か」で「アルコール度数は過去数年よりも低め」とのこと。

(Y. Nagoshi)

輸入元:ラック・コーポレーション

大橋健一MW著「シャブリ -日本のワイン市場を俯瞰する-」は、Amazonで購入できます。

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