- 2026-9-8
- NEWS, Wine, スペイン Spain

トップ写真:ラウンドテーブルの様子。フェルナンド・モラMW(左端)と4人のシェフ。左からダビット・ヤルノス氏(El Molino de Urdániz)、ダビッド・ガルシア氏(El Corral de la Morería)、ベニート・ゴメス氏(Bardal)、ナチョ・マンサノ氏(Casa Marcial)
2026年6月2日、JWマリオット・ホテル東京で「スペイン・フュージョン ザ・プレミアム・エクスペリエンス」が開かれた。主催はVocento Gastronomía、協賛はスペイン貿易投資庁のFoods and Wines from Spain。東京開催は3年連続になる。国際料理学会「マドリード・フュージョン」の日本版サテライトで、本家は2003年に始まり今年1月に第24回を数えた。ミシュランの星を持つ4人のシェフが登壇し、ワインのマスタークラスをフェルナンド・モラMWが受け持った。


品種ではなく、場所
モラ氏のマスタークラスは白ワインと赤ワインの二部構成だった。前半の入りはこうだ。「スペインはこれまで、主に赤ワインを発信してきた国だ。だからこそ見せたいのが、白ワインの対応力だ」。
そのうえで「スペインでは、在来品種の名前がそのまま産地に結びつく」と言う。ガルナッチャ・ブランカ、アルバリーニョ、パロミノ。「他国で語られるような、これが私のシャルドネの個性、これが私のソーヴィニヨン・ブランのスタイル、という説明は、スペインでは成り立たない。品種ではなく、場所が個性を語る」と、モラ氏。
典型(tipicidad)という概念も強く否定した。「ある地域のある時期に、造り手たちが選んだ方向の味わいでしかない。10年で傾向は変わる」。
例に挙げられたのがプリオラートだ。1980年代まではバルクワインの産地であり、その後カベルネ・ソーヴィニヨンを交えたガルナッチャが主流になる。90年代半ばにはガルナッチャへ回帰し、2000年代にはまた別のスタイルが現れた。40年のあいだに、この産地の「らしさ」は四つあったことになる。「どれが典型なのか。全部か、どれでもないかだ」。
白の試飲から二本を挙げる。リオハ・アルタの「ゴメス・クルサド モンテス・オバレネス 2021」はビウラ。カタルーニャとアラゴンではマカベオと呼ばれる品種だ。樽による酸化的な熟成で、マルメロの皮に燻した香りが重なる。
プリオラートの「マス・ドイシュ ムルムリ 2023」は、そのマカベオとガルナッチャ・ブランカのブレンド。スレート由来のミネラル感があり、味わいに重みがある。タイム、熟したかんきつ、わずかな塩気を伴う。
ガルナッチャという翻訳者
後半は赤ワイン。一例として、同じガルナッチャを産地違いで並べた。「ガルナッチャは産地をよく写す品種だ。だから我々はテロワールの翻訳者と呼んでいる」。
さらにモラ氏はテロワールという語を、テリトリオ(territorio/領域)と呼ぶことを推奨する。「今日はスペインの話をしているのだから。まったく同じ言葉というわけではないが、畑の土壌、標高、傾斜、向き、気候、降水量、それらを一つにまとめられる」。
ナバーラ、サン・マルティン・デ・ウンクスの「ラ・ダマ 2018」は、ラウル・ペレスが前の造り手から引き継ぎ、自らの名で瓶詰めした最初のヴィンテージにあたる。「ガルナッチャは果皮が薄く、本来は色が淡い。地中海のピノ・ノワールのようなものだ」とモラ氏。ドライフラワー、タイム、ローズマリーが香る。
カラタユの「クエバス・デ・アロム アス・ラディエラス 2022」は、モラ氏自身のプロジェクト。カラタユの平地は堆積岩に石灰質が混じって暑い。だがこの畑は呼称の端にあたる高い斜面で、造山運動が押し上げた変成岩、スレートと珪岩である。全房発酵100%。オレガノ、ブラッドオレンジ、バラの花弁。タンニンは張りがあり、酸はフレッシュだ。
「同じガルナッチャなのに、宇宙が違う。品種は、その土地が持っているものを映す助けにすぎない」と、モラ氏。


木工職人ではなく、農民
一日の締めくくりには、モラ氏と4人のシェフが並ぶラウンドテーブルが組まれた。モラ氏はまず、シェフたちに向けてこう言った。「スペイン美食の偉大な大使はあなたたちだ。あなたたちのおかげで、人々は、我々のワインに耳を傾けるようになった。そして何より、あなたたちは長年、テリトリオの産物を、具体的な場所を、職人を擁護してきた。いまのスペインワインが証明しつつあるのは、まさにそれだ」。
そのモラ氏が、逆に、スペインワインには何が足りないかを問われた。「レラート(relato/語り)だ」と言う。「素材はずっとあった」と続けた。世界が均質化に向かい、どれもが似た味になった時期がある。それがワインを壊した。だが状況は動いている。「以前、世界の名店のリストに載るスペインワインはボデガ三軒、産地は二つか三つだった。いまはテネリフェもビエルソもモンティージャも並ぶ」。
そのうえでこう結んだ。「畑が教えてくれている。我々はテリトリオを語るようになり、樽をあまり語らなくなった。木工職人(ebanista)であることをやめ、農民(argicultor)になった。ワインとはそういうものだ」。
(N. Miyata)














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