ザ・ヒルトの醸造家マット・ディースが解き明かす、サンタ・バーバラの土壌とワイン

ザ・ヒルトはサンタ・バーバラのシャルドネとピノ・ノワールに特化したワイナリー。同地域でボルドー品種とローヌ品種のワインを産するホナータと同様、スクリーミング・イーグルのオーナーであるスタン・クロンキーの所有だ。この2つのワイナリーの醸造責任者を兼ねるマット・ディースが、ザ・ヒルトの紹介のために来日した。

〈サンタ・バーバラへの道〉

マットはカンザスシティの出身。ワイン産地ではないが、幼い頃から植物や昆虫や土壌に関心を持っていた。ヴァーモント大学では植物学と土壌学を専攻。ブドウを植えて寒冷地での成育を実験してみたが満足な結果は得られず、適地を求めてナパへ。2001年春にスタグリンのアンディ・エリクソンに師事し、冬はニュージーランドのクラギー・レンジで収穫を経験、シラーとピノ・ノワールの扱いも体得した。その後、ナパとニュージーランドの中間的な環境を求め、2004年にサンタ・バーバラに。ホナータのワインメーカーになり、近隣のワインを試飲するうちに、この地がシャルドネとピノに適していると気づく。2008年からザ・ヒルトのワインメーカーも兼任したが、当初は自社畑を持たなかった。自分らの所有だと分かる個性を感じられないなら、単一畑のワインを作る意味はないと考えていた。だから、スタイルの違いを見せる2つアイテムを作った。“先駆者”を意味し、果実味豊かでボディがある「ザ・ヴァンガード」。“昔かたぎ”を意味し、控えめでエレガントな「ジ・オールド・ガード」だ。

〈自社畑という選択〉

2014年、マットは太平洋から20kmの内陸にあるサンタ・リタ・ヒルズのユニークな土地を見つけて購入した。地名は、逃げられるなら今逃げろ、という意味を持つランチョ・サルシプエデス。海からの冷たい強風の影響をまともに受ける。標高差がある起伏に富んだ地形で、特有の微小気候がある。

ランチョ・サルシプエデスの2つの自社畑のひとつ、レディアン・ヴィンヤードは、上部の区画は珪藻土、下部は堆積岩で保水性が高い。珪藻土がもたらす酸味は鋭い。ブレない焦点はバランスの取りにくさにも繋がるから、別の土壌の区画のブドウと混ぜる。シャルドネにはビュアなシトラス、ピノ・ノワールには黒い果実ダスティな風味が備わる。

北向き斜面にあるベントロック・ヴィンヤードは海風の影響を強く受け、生育期が長い。浅いロームの表土の下にモントレーシェール(頁岩)とチャート(角岩)の層がある水捌けの良い痩せた土地。シャルドネには気品が、ピノ・ノワールにはシルキーでビロードのような赤い果実、ブラッドオレンジの風味が備わる。マットの方向性は、単一畑の個性にフォーカスするようになっていく。

〈畑と向き合う土壌のスペシャリスト〉

〈透明感あるシャルドネ〉

〈ピノ・ノワールはクローンを使い分け〉

(Saori Kondo)

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