シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー 他者が追いつけば突き放すリーダーの矜持

長野県上田市、合併前の旧丸子町に位置するシャトー・メルシャン椀子ヴィンヤード。椀子(まりこ)の名前は6世紀後半、この地が欽明天皇の皇子「椀子皇子」の領地だったことに由来する。新たな自社管理畑の場所を探し求めていたシャトー・メルシャンは、2000年にこの地と出会い、2003年に開園。そして今年の9月21日、ブドウ畑を一望する高台に、いよいよ、「シャトー・メルシャン椀子ワイナリー」がオープンした。

 

約束の土地との出会い

椀子ワイナリーのある上田市は、千曲川ワインバレーに属す。信州ワインバレー構想の中で最も範囲の広いこのエリア。さすがに北信地区とは気候的、土壌的にも共通点を見出しにくいと見たのか、小諸市や東御市など近隣の8市町村と組み、千曲川ワインバレー東地区を形成している。この地区は広域ワイン特区に認定され、小規模ワイナリーの誕生が相次ぐ、長野で最もホットなワイン産地である。

(中略)

 

魅せるワイナリーの完成

最初の植樹から16年。ブドウ畑のまさに中心に、待望のワイナリーが完成した。小林さんによれば、ひと言でいって「魅せるワイナリー」という。ひとつはブドウ栽培から醸造工程までビジターになにひとつ隠すことなく公開していること。もうひとつはテイスティングルームやテラスから一望可能なブドウ畑の360度大パノラマである。

椀子のブドウ畑は現在29ha。小さな起伏を残したままブドウは植えられており、区画の中でも斜面の向きが微妙に異なる。メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、ソーヴィニヨン・ブランなど8品種を栽培。

 

そのテイスティングルームからは醸造施設も覗けるのだが、これがまたすごい。傾斜地にあることを利用したグラヴィティフローの構造になっている。ブドウのレセプションはフロアよりも高い位置にあり、そこに持ち込まれたブドウは選果を経て除梗。軽く破砕された果粒は、UFO型の小型容器に収められ、それをクレーンで吊ってタンクの直上まで移動させて投入。ポンプは一切使わない。

ブドウ栽培からワイン醸造まで、全行程公開がこのワイナリーの特徴。テイスティングルームからガラス越しに醸造施設が見える。グラヴィティフローの様子がよくわかるだろう。この右に2つの樽熟成庫がある。

初年度はここの畑で収穫される100tのブドウのうち、70tを椀子ワイナリーで醸造。北信のブドウも一部受け入れる予定でいる。29haの畑がすべて成木になれば、150~180tのブドウを処理することになるだろう。

椀子ワイナリー長
小林弘憲さん

椀子ワイナリーは単なる醸造施設にとどまらないと、小林さんは考えている。ひとつは「地域との共生」。ブドウ畑の開墾からワイナリー開設まで、地域の人々の協力なしでは実現しえなかった。「とくに平日は地域のコミュニティの場として、ワイナリーを利用して欲しい」と小林さん。すでにワイナリーのショップでは、地域の工芸品とコラボした商品を販売しているが、椀子ワイナリーを拠点とした地域観光など、経済の活性化にも貢献したいという。

次に「環境保全」。長年遊休荒廃地だった陣場台地は自然環境も破壊されていた。しかし、ここがブドウ畑になると、植物や昆虫、野鳥が戻ってきたという。いわゆる里山再生である。さらに「次世代への継承」だ。小学生には遠足や社会科見学、中高校生にはブドウ栽培を通した職業体験学習、大学生にはテイスティングルームでの実習により、ツーリズムやコミュニケーションの学びの場となることを期待している。ちなみに食育の一環として、敷地の一部を塩川小学校のジャガイモ畑として提供しているそうだ。

勝沼、桔梗ヶ原、椀子。3つのワイナリーが完成したシャトー・メルシャン。しかし、ゼネラル・マネージャーの松尾弘則さんはいう。

2009年に植え付けられたブロック11のシラー。間引きもされ、除葉もきれいに行われて、あとは収穫を待つばかり。ご覧のように房の数は1本の新梢に2つ。シラーは今後、長野を代表する品種になりそうだ。

「これが終わりではありません。次のステージへの始まりです」。

シャトー・メルシャンは2027年までに、自社管理畑の面積を2018年比で1.5倍の76ha、販売量も同じく1.5倍の6万7000ケースまで拡大する計画。日本ワインをつねにリードする、トップワイナリーの矜持を見せつけられた。(Tadayuki Yanagi)

シャトー・メルシャンhttps://www.chateaumercian.com/

 

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