斬新なるボルドーの顔 その1 SO2 ゼロの IPSUM イプスム

ヴィニョーブル・シオザールが造る「イプスム」は、メルロ100%でSO2 無添加。ボルドーでSO2 無添加のワインを造っているとは驚いた(他社製品でもう1アイテムだけ存在するようだ)。オーナーで醸造家のダヴィッド・シオザール(写真左)が、なぜこのようなワインを創り始めたのかについて語った。

 

ヴィニョーブル・シオザールは、アントル・ドゥー・メール、グラーヴ、ソーテルヌに合計60haほどのブドウ畑を所有している。9つのAOCの10種類のワインを造っていて、そのうち赤ワインは6種類。伝統的なキュヴェもあり、「わかりやすさ」を大切にした単一品種のキュヴェも6銘柄あるがSO2無添加のワインは、このイプスムだけ。

 

実はこのプロジェクト、随分前から考えていたらしい。そして家族の同意も得て2011年から準備に取り掛かかり、晴れて2013年が初ヴィンテージとなった。

「SO2無添加のワインを造るには衛生管理がとても大切なので、どのように醸造所内を見直せば実現できるのか試行錯誤を繰り返した結果、今の形になりました」と、ダヴィッド。

彼が最も好きで、ボルドーらしい品種だと考えるメルロを選択。アントル・ドゥー・メールの北側でサンテミリオンの対岸に当たる粘土石灰質土壌の、醸造所から最も近い区画のブドウを使うと決めた。酸化やコンタミネーションを防ぐために、あらゆる手段を講じた。「ブドウは収穫後すぐに破砕され、衛生状態が保たれ、ブドウそのものの温度でアルコール発酵がすぐに始まるため果汁は自然に守られています」。

温度調節機能付きのステンレス製密閉タンクで醸造。他のキュヴェ用の醸造や樽貯蔵庫からも遮断した場所で醸造・熟成し、ポンプや管などの機材も全てイプスム専用に用意した。

 

他国、あるいは他地域のワインから影響を受けてのことなのだろうか? それにしても、ボルドーでは基本的にSO2は必須だとボルドー大学の教授がおっしゃっているので、決断には相当な勇気が必要だったのでは? と、少々意地悪な質問をすると、

「誰かから影響を受けた、ということはありません。このテロワールから生まれたメルロの品種特性を活かすために我々が熟慮した末にたどり着いた結論です。勇気ではなく、厳密さが必要とされます」と、とても冷静な答えが返ってきた。

「気軽に、鉄板焼きや焼き鳥、日本の日常の食卓で楽しんでほしい」とも言う。

 

6番目のヴィンテージ2019年のイプスムは、赤い果実とクミンに似た少しエキゾチックなスパイスの香りがした。そして、しなやかなアタックでフレッシュな酸と細やかなタンニンを備えている。予想より上品で、しかしストラクチャーはしっかりとしている。スイスイと心地よく飲めてしまう、とても綺麗な味わいだ。生産量は20,000本のみ。(Y. Nagoshi)

取材協力:ボルドーワイン委員会

斬新なるボルドーの顔 前置き

斬新なるボルドーの顔 その2 カルメネール100%  Château Recougne

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