カナリアの固有品種を再興するビニャティゴ

 カナリア諸島といえば、固有品種の宝庫。この印象は決して誇張ではない。大航海時代の16〜17世紀半ば、この島々は世界のワインの港として栄華を極めた。今、当時持ち込まれた品種が500年の歳月を経て独自の進化を遂げている。実に80種以上が存在し、うち40種以上は世界のどこにも存在しない固有品種となった。

 品種の希少性のみならず、19世紀にヨーロッパを壊滅させたフィロキセラの被害を免れた稀有な土地として、接ぎ木なしの自根栽培が今も続く。その複雑で豊かな文化を伝える生産者の一社が、ビニャティゴである。創業者のフアン ・ヘスス・メンデス・シベリオ氏は、DOPイスラス・カナリアスの会長で、カナリアワインの歴史と地理を世に広めた立役者だ。4月下旬、同社オーナー一家が来日し、東京・北参道の「LA GALERIE」で試飲会を開催した。

来日したビニャティゴのオーナー一家。創業者のフアン ・ヘスス・メンデス・シベリオ氏(左)、夫人のマリア ・エレナ・バティスタ・エレラ氏(中央)。二代目のホルヘ氏(右)は、世界各地でワイン造りの研鑽を積み、2024年にはバスク・キュリナリー・センターの「ガストロノミー界の若き才能100人」に選ばれた新星だ。

 カナリア諸島の栽培環境は独特だ。海抜0mから1,700mという極端な高低差、火山性土壌と粘土・砂利の混在、そして貿易風が生み出す雲海が1,500m付近でブドウ畑に湿気を供給する。仕立てはスペイン、ポルトガルの影響を受けながら、独自の手法も発展した。例えばテネリフェ島北部では、伝統的な「コルドン・トレンサード(三つ編み仕立て)」と呼ばれる編み込み栽培法が受け継がれ、樹勢をコントロールしながら急斜面での栽培を可能にしている。

 ビニャティゴは1990年の創業時、「失われた固有品種の復活」を掲げた。当時はブドウ樹がわずか5〜6本しか残っていない固有品種もあったという。テネリフェ島北部の火山性土壌に建つワイナリーは、醸造施設を地下に配し、重力を活用したワイン造りをする。収穫後のブドウは品種ごとに一晩冷却し、できるだけ酸化を防ぐことでSO2添加を最小限に抑える。多様な品種に対応するため、発酵槽はステンレスタンク、卵形コンクリートタンク、木樽、アンフォラ、と使い分けている。

 試飲では4種が供された。「リスタン・ブランコ 2023」は自根、樹齢100年以上の古木で、ブドウはテネリフェ島北西部の2つの区画から収穫。リスタン・ブランコはアンダルシアから渡来したパロミノが起源だが、強いミネラル感があり、異なる個性をもつ。ドライフルーツ、フェンネルの香り。貿易風の影響で塩味もあり、さらに白桃やスモーキーなニュアンスも感じられる。

「アッサンブラージュ・ブランコ 2023」は6品種のブレンドの白。マルマフエロ、リスタン・ブランコ、マルヴァシア・アロマティカ、ビハリエゴ・ブランコ、グアル、アルビージョで、ほとんど絶滅しかけていた品種ばかりという。トロピカルフルーツ、ハーブ、塩味が特徴で、複雑ながら見事に噛み合っている。ブレンドの良さが存分に表現された一本だ。

「マイペ・デ・タガナナ 2023」は、島北東の単一畑で育つ樹齢117年のリスタン・ブランコ100%。粘土質の岩石がごろごろと積み重なる岩場で、その隙間を縫うようにブドウの枝が地上に顔を出している。畑というより岩場と思うような、ユニークな光景だ。スモーキーな香りが柔らかく、そして華やかに立ち上がる。

「ネグラモル 2023」は“カナリア諸島のピノ・ノワール”の異名を持つネグラモル100%。果実味、酸、タンニン、ミネラル感がバランスよく調和してエレガント。香りは赤い果実、花、トフィーと複層的だ。フレンチオーク古樽で8か月熟成させる。

 会場となった「LA GALERIE」を運営するHUGEのコーポレートソムリエ・石田博氏は、昨年テネリフェ島を訪問した。石田氏は「世界に数ある固有品種の中でも、とくにカナリアワインは国際品種のファインワインに引けを取らないほどクオリティが高い」と評価している。(N. Miyata)

輸入元:サラ・コーポレーション

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