- 2026-5-5
- スペイン Spain
- ウニコ, ベガシシリア

2026年3月17日。東京・六本木。「The Oak Door」のランチの席で、テンポス・ベガ・シシリア当主パブロ・アルバレス氏は笑いながら言った。
「1月から今日までで、27回飛行機に乗った」。
年が明けてからの約2か月間。月平均10回を超えるフライト。160年続くワイナリーの当主が、自身の身体を世界に運び続けている。同席は、昨年8月に着任したマネージングディレクターのジェシカ・ジュルミー氏。スイス出身、モエ・ヘネシー(LVMH)でクリュッグやシャトー・ガルーペを率いた経歴を持ち、ラグジュアリー市場と国際展開に通じた人物だ。同社初の女性マネージングディレクターとして、アルバレス家の哲学を国際市場へ展開する新体制が始動している。
テーブルには、今年リリースされた「ウニコ 2016」。グラスに注がれた液体は艶やか。黒い果実の甘やかな温かみが立ち上がり、複雑さとエレガンスが重なる。口に含むとカシスの軽やかさを残しながら、ストラクチャーとミネラルが一体となり、滑らかでシームレスなテクスチャーを描く。余韻にはヴァニラとうま味が長く伸びた。10年の時を経て、ようやく世に出るワインである。
「テンプラニーリョのエッセンスとは何か」。
問いを投げると、氏は穏やかに答えた。スペイン全土で栽培される最も重要な品種であり、偉大なワインを生む力は何世紀も前から証明されている、と。昨年、ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」で開かれたウニコの40ヴィンテージ試飲会に触れ、こう語った。「歴史的に、長期熟成に耐えるブドウといえばカベルネ・ソーヴィニヨンとされてきた。しかし英国の評論家ジャンシス・ロビンソンは、テンプラニーリョにはそれ以上のポテンシャルがあるかもしれないと言ったのだ」。氏にとって、それは驚きではなく確信の裏付けだった。


樽の話になると、氏の目に力がこもった。アメリカンオークとフレンチオークの比率は毎年調整する。トーストは7段階。ヴィンテージの性格を見極め、収穫後にどの樽に入れるかを決める。「樽は、ワインに着せる衣服のようなものだ」。樽材の選定から焼き入れまで、自社の樽工房で一貫して管理する。新樽の比率を100%にすれば樽香が勝ちすぎる。少なすぎれば構造が出ない。
「Balance is the key」。
そして、そのバランスが完成形に至るには、長期熟成という時間が不可欠だ。ウニコが10年寝かせて初めて世に出るのも、この理由による。
新たな試みの話も出た。リアス・バイシャスでベガ・シシリア初の白ワインプロジェクト「デイバ」が進行中だ。総額2,000万ユーロを投じてアルバリーニョの単一品種ワインを醸造、2027年に初リリース予定。醸造責任者はガリシア出身のギジェルモ・アルヴァラード氏(小誌「WANDS 2025年9-10月号」で詳報)。そのデイバ、そしてピンティアやアリオンの各蔵では現在、ガラス製の発酵槽「ワイングローヴ」が試験的に導入されている。ステンレスのような中立性を持ちながら、独自の性格を加えるという。ただし全生産量に対する比率はごく僅か。コストは1基あたり数万ユーロ。「少しずつ試し、毎年バランスを探る。レシピはない」と氏は言う。その年のブドウと向き合いながら微調整を続けていく。
話題が再び移動に戻ったとき、氏はPrimum Familiae Vini(PFV)に触れた。シャトー・ムートン・ロートシルト、シャトー・オー・ブリオン、ボデガス・トーレスなど、世界の家族経営の名門ワイナリーが集う連合だ。今年の議長は、シャトー・オー・ブリオンを所有するドメーヌ・クラランス・ディロン社長、プリンス・ロベール・ド・ルクセンブルク氏。6月にはベガ・シシリアで家族会合が開かれる。同席のジュルミー氏は補足する。「家族経営だからこそ、長期的な視点で動ける。ワインには時間が必要だ」。
グラスの「ウニコ 2016」は、空気に触れるたびに表情を変えていった。同じ液体が、時間とともに別の顔を見せる。
輸入元:ファインズ
(N. Miyata)















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