「ワーテルロー 泡の戦い 2015」<前編> by デイヴィッド・コッボルド /訳:立花峰夫

hatなんといっても、シャンパーニュはフランスで最も高名なスパークリングワインである。政府が厳しく管理保護する原産地呼称システムのもと、3.3 万ヘクタールの特定地域がその生産にあてられている。フランスの他地域でも、スパークリングワインを沢山造っているところは数あり、地場品種だけでなくシャンパーニュと同じ葡萄が用いられることもしばしばである。瓶内二次発酵を経るものは、「クレマン」の語を含む原産地呼称名を名乗ることが多く、地方名がその語に連結されている。クレマン・ダルザス、クレマン・ド・ブルゴーニュといった具合だ。

 

他のヨーロッパ諸国にも、成功を収めているスパークリングワインがあり、とりわけスペインのカバとイタリアのプロセッコなどが目を引く。とはいえ、世界のスパークリングワインを勢揃いさせるのが今回の目的ではない。上記3 カ国から選んだものに特化したいのだが、ベルギーにはちょっと目配せをしておきたい。というのも、もともとの戦のあった土地が、今ではベルギーの一部になっているからだ。回顧イベントだから当然ながら、ワーテルローの古戦場のどこかで開催されねばならぬ。

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同業のワイン・ジャーナリストであるエルヴェ・ラルーとマルク・ヴァンエルモンが、完璧な場所を見つけてくれた。ラ・フェルム・デュ・モン・サン・ジャンという名の農場跡で、戦のあいだはイギリス軍の野戦病院として使われていたところだ。今では、ビール醸造所、レストラン、売店、テイスティング・ルームを備えた施設になっている。

ちょっとした偶然なのだが、私の先祖の一人は1815 年の戦いにおいて、ウグモンという名の別の農場を防衛していた。近衛歩兵第二連隊所属の第二大隊を指揮していたのである。

 

この平和なる戦いで競い合うワインを、いかにして選ぶべきか。まずは、両陣営の数をおおまかには揃えなければならない。当初は、国ごとに10 ~ 12 銘柄を想定し、そこにベルギー産をひとつ加えるつもりだった。1815 年には、すでに泡立つシャンパーニュがあって、広く知られてもいた。今日まで操業を続けるグラン・マルクも、いくつかは開業していたのだ。だから、フランスの三色旗を守るシャンパーニュの銘柄は、当時からあったものにした。

 

一方、イギリス産スパークリングワインのほうは、ずっと歴史が浅く、候補になる数もうんと少ない。それでもなんとか、サンプルを提供してくれる生産者を7 軒見つけることができた。ライン川の対岸地域では、ドイツが今日最大のスパークリングワイン生産国(ならびに消費国)なのだが、国外での知名度はまだまだ低い。だが、「ドイツ産ゼクト」ならびに「伝統的醸造法」のスパークリングワインのうち最良のものは、その品質も上り調子であり、十分な軍備を揃えることができた。ドイツからは14 もの銘柄が揃えられたのである。数を揃えるために、イギリス軍には他の国から3 銘柄が加えられた。ベルギーからひとつ、スイスからひとつ(1815 年にはフランスの一部だった地域の産である)、アルザスからひとつである。

 

選定プロセスが少々恣意的に思われるかもしれないが、理にかなった方針はあるのだ。シャンパーニュの場合、選ぶ基準は無論歴史的なものである。イギリスの場合、サンプルは自発的に提出されたもので、イギリスワイン生産者協会にお願いしてそうなった。試飲した14 のドイツワインのうち12 については、最近行われたドイツ産スパークリングワインのコンテストで最上位に並んだものだ。『ヴァイン&マークト』誌のクラウス・ヘルマンが、手配してくれた。1815 年以前に設立されたシャンパーニュ・ハウスにサンプルを依頼するのは、私自身が個別に直接行った。3 軒だけ、参加を拒んだか依頼に対して返答しなかったところがあり、モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、ペリエ・ジュエがその「脱走兵」である。何を恐れていたのかは大いに理解に苦しむところで、というのも、これほど平和で友好的な企画は他になく、かつ企画はプロの流儀で取り仕切られるからだ。なお、1815 年にはなかった銘柄なのだが、ナポレオンという名のワインを軍勢に加える誘惑には抗えなかった。理由は説明するまでもないだろう。

 

11 人の審査員は、フランス、ベルギー、イギリス、ドイツから集められた。いずれも経験豊かなワインのプロであり、各国の主要なワイン雑誌が代表を送り込んでくれたのだ。テイスティングは専門的な形式で組み立てられ、国別に異なるフライトとしてブラインドで試飲した。そこで最上位9 銘柄を選び、決勝戦として再度ブラインドで味わっている。開催日は、2015 年11月7日だった。ベルギーのワイン雑誌『ヴィーノ・ヴェリタス』とワインブログの『レ・サンク・デュ・ヴァン』がイベントに協力してくれ、ワインの準備を請け負ってくれた。以下が試飲したワインの全銘柄であり、試飲の順に並んでいる。

 

訳注1: 筆者は「ドイツのゼクトとはタンク内発酵の泡で、瓶内二次発酵のものはゼクトとは呼ばない」という想定で書いてるが、ゼクトの中には少数ながら瓶内二次発酵のものやトランスファー法のものがある。

後編につづく(一部画像/WANDS.YN)

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