素材感たっぷり! ナチュラルワインに近いイメージのクラフトビール JAPAN HOP 〜最優秀圃場IBUKI〜

スプリングバレーブルワリー東京で今だけ味わえる「JAPAN HOP 〜最優秀圃場IBUKI〜 」

 

ヘッドブリュワー 古川淳一さん

ちょうど弊誌WANDS2022年1月号でイタリアワインにおける、ブレンドと単一畑キュヴェについて検証したところだ。単一畑のキュヴェは、イタリアだけでなく各国各地で増え続けている。どこかのチョコレート会社も、豪華な産地別タブレットのテイスティングセットを販売している。品種や産地などによる香味の違いは、世界中のおいしい者好きの好奇心をくすぐるツボなのかもしれない。

日本産ホップの代表格のひとつIBUKI。その中でも、「最優秀圃場」に選ばれた畑のIBUKIを使ったクラフトビールが、数量限定ながら1月14日から販売が始まった。スプリングバレーブルワリー東京だけで今しか飲めない。そこで、この貴重なIBUKIとそのビールについて、ヘッドブリュワーの古川淳一さんに話を聞きに駆けつけた。

 

岩手県遠野地区のIBUKIの畑

 

最優秀圃場IBUKI

「最優秀圃場」とは、キリンビールが2014年から行っている「ホップ優秀栽培者選定会*」の最優秀栽培者の畑を示している。今回の場合は、2020年度の最優秀栽培者で山形県南ホップ農業協同組合に所属する小関(おぜき)孝良さんが育てたホップだ。

なぜ2020年度の最優秀栽培者なのか。通常、ホップは収穫するとすぐに乾燥させて組合ごとにブレンドして出荷するため、ブルワリーは個々の農家ごとにホップを区別して使用していない。だから、例えば直近の2021年産ホップは選定会用に個別に分けておいたもの以外はすでにブレンド済みなのだと言う。スプリングバレーブルワリー東京ができた2015年からは、毎年秋に「最優秀圃場」のホップを使用した銘柄を提供してきたが、昨年は都内飲食店の営業自粛期間が長く叶わず、お披露目が年明けに延期されたというわけだ。

だから、今飲めるのは、2020年度の最優秀栽培者・小関孝良さんが2021年に栽培し、収穫したホップを使ったもの。2014年の最優秀圃場から数えて7回目の特別な作品ができあがった。

 

日本産ホップIBUKI

IBUKIというホップは何が特徴なのだろうか。

「沈丁花やレモンの香りが特徴です」と、古川さん。ただ、「苦味の強い品種ではない」と言う。だから大半は小関さんのIBUKIなのだが、他のホップで苦味を補強しているようだ。最終的な仕上がりのバランスを整えるのもブリュワーの重要な仕事。「100%で造るのが必ずしもベストではない」、というのもワインのブレンドと単一畑の話に似ている。

では、例えば山形県と岩手県など、東北地方の中でも産地による違いはあるのか聞いてみた。実際にここ数年間、選定会にジャッジとして参加している古川さんは、こう言う。

「基本的にはどの組合も非常に品質の高いホップばかりで、IBUKIの特性を十分に備えたものが各組合からエントリーされるので、毎年選ぶのが大変です。ただ、じっくり比べてみると、例えば色は黄色が強い、緑が濃いなどの違いがあります。これは年産というより産地の特徴ではないかと思わせる部分があります」。いわゆるヴィンテージの差はそれほど大きくなく、産地による違いの方が大きそうだ。

ちなみに、官能検査は乾燥させた状態のホップを外観と香りで評価すると言う。もちろん醸造段階で変化する成分もあるけれど、それも加味した上でホップを買い付けるのがブリュワーとして当たり前のことのよう。

ホップは、通常は収穫してすぐに乾燥させて粉砕し、ペレット状に加工される。古川さん曰く、「ホップはとてもデリケイトで、みるみる酸化、腐敗してしまうから」。ただし、この「JAPAN HOP 〜最優秀圃場IBUKI〜」の場合には、キリンビールが特許を取得した「凍結粉砕」技術が用いられている。

「貴重なホップですから、いつもと違う使い方にしました。生のホップ、とれたてのホップの特別感を楽しんでもらいたい。新しい味を体験してほしいですね。生産者の方も、きっと今まで飲んだことがない味わいだと思います」。

ちょうど取材した日に、栽培した小関さんのところへ「JAPAN HOP 〜最優秀圃場IBUKI〜」の味見用を送るところだった。自分の栽培したホップをほぼ単体で味わえるとは、生産者にとっても滅多にないことに違いない(感想を聞いてみたいなぁ)。

瞬間冷凍後に粉砕されたホップは、「青さ、ハーブのようなスーッとしたニュアンス」が特徴だと古川さん。ホップを乾燥させると、すぐに揮発してしまう成分を水分で守りそのまま残すことができる特別な「凍結粉砕」の底力によるものだ。

岩手県遠野地区産のIBUKI

 

さて、少々味見をさせていただこう。

と、思ったがその前にひとつ質問したいことが。なぜかというと、ほとんど泡のない状態で出てきたからだ。スプリングバレーブルワリー東京で供されるクラフトビールは、種類によって泡の状態が様々だ。「JAPAN HOP 〜最優秀圃場IBUKI〜」は、なぜ泡なしなのだろうか?

「通常、泡は味が柔らかく丸くすると言います。その通りで、苦味を和らげてくれます。ただ、泡立つということは、香りが泡と一緒にふわっと飛んでいく、少し逃げることになるのです。今回はホップの香りを最大限に楽しんでいただきたい、樽に入っているビールそのままの香味をダイレクトに感じていただきたいという意図で泡立てずに提供します」。

なるほど。一口飲むと、柑橘類や花の香りも爽やかで心地よいけれど、むしろ口中での広がりに驚いた。古川さんの言う通り、スーッと感じるほのかなグリーンノートがとてもフレッシュで、ピチピチとした勢いのようなニュアンスを感じる。このおいしさの感覚は、どこかで味わったことがあるような気がしてしばらく考えた末にわかった。近年オーストラリアワインの世界で人気のクリーン&ナチュラルワインのカテゴリー。つまり、素材感たっぷりなおいしいナチュラルワインの印象によく似ている。

(Y. Nagoshi)

スプリングバレーブルワリー東京

 

*日本産ホップの96%が東北地方産で、キリンビールは50年以上に亘りホップの協同組合と契約している。2014年から開催している「ホップ優秀栽培者選定会」は、キリンビールが契約している4組合(岩手県遠野、岩手県江刺、秋田県横手、山形県南)に所属する74農家(2021年時点)を対象に行なっている。

 

 

 

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