”メキシコワインの都”バハ・カリフォルニア州の生産者が来日 日本市場参入に意欲

メキシコ北西部、太平洋に面したバハ・カリフォルニア州は「メキシコワインの首都」とも称される。150超のワイナリーを擁し、年間約200万ケースのワインを生産。同国のワイン生産量の70%を占めている。4月下旬、州の中心地エンセナーダ市から生産者たちが来日した。23日にはメキシコ大使館で試飲セミナーおよび都内のメキシコ料理店「シエリートリンド バー アンド グリル」でイベントが開かれ、輸出拡大を視野に業界関係者との交流を深めた。

写真:左からエンセナーダEDC グローバル製造部門専門員のマリオ・A・ペレグリナ氏、サント・トマスの広報担当のケイコ・ニシカワ氏、ブルマのオーナー醸造家ルル・マルティネス氏、ビニコラ・インフィニートの醸造家マリオ・ガルシア氏。

メキシコのワイン産業は、アメリカ大陸で最も古い歴史を持つ。1574年に最初のワイン生産が記録され、その後16世紀後半には質の良いワインが生産されるようになった。しかし、スペイン本国のワイン産業への影響を懸念したフェリペ2世がブドウ栽培を禁止。この禁止令は1810年のメキシコ独立まで続いた。独立後にワイン生産が再開され、現在は国内10州以上で生産されている。とくにバハ・カリフォルニア州エンセナーダ周辺、バジェ・デ・グアダルーペ(Valle de Guadalupe)は一大産地で、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、シュナン・ブランなどの国際品種に加え、ネッビオーロやバルベーラなど地中海系品種の栽培も行われている。

ブルマ(Bruma)社のオーナー、ルル・マルティネス氏は言う。「モンテ・ザニック(Monte Xanic)ら、メキシコでのワイン産業が軌道に乗ったのは1980年代。ナパのブームが興ってから10年後のことだった」。氏はボルドーで17年キャリアを積んだ後、2014年に自社ワイナリーを創設。畑のブドウは94年前に曽祖母が植えたものという。醸造には500ℓのフレンチオーク樽を使っている。バハ・カリフォルニアは「ナパと同じように地中海性気候で、ブドウ栽培の適地。現在は実験的で創造性に満ちている。私のように海外で学んで帰国する醸造家が増えている」と話す。エンセナーダ周辺には7つの谷が広がるが、氏が拠点とするバジェ・サン・ビセンテは「冷涼で、酸が綺麗に保たれる」とのこと。

サント・トマス(Santo Tomas)社はバジェ・デ・サント・トマスで1888年に創業。メキシコで最も古い歴史を持ち、バハ・カリフォルニア州でも最初に興ったワイナリーとして地域を代表する存在だ。今回試飲した「ティンタ・メヒコ 2023」はバルベーラとメルロのブレンドで、オーク小樽で熟成。ほど良い酸と果実味のバランスが取れた仕上がり。
「バルベーラは、ネッビオーロより先にバハ・カリフォルニアに到来し、当社が最初に栽培に着手した」と、同社広報のケイコ・ニシカワ氏。さらに、イタリア系品種の興味深い歴史を語ってくれた。
バハ・カリフォルニアで栽培されている「メキシカン・ネッビオーロ」と呼ばれる品種については複雑な背景があるという。「この品種は過去にさまざまな品種と混植された時期があり、現在イタリアで栽培されているネッビオーロと同じ品種かはまだわかっておらず、正確には遺伝子分析が必要」と、ニシカワ氏は説明する。氏によると、メキシカン・ネッビオーロは、ネッビオーロとドルチェットの交配種と考えられている。「ドルチェットの特性がより強く表れているのが特徴。一方で、昔持ち込まれたネッビオーロから派生した、地域独自の品種が存在する可能性もある」。

ビニコラ・インフィニート(Vinícola Infinito)社は2008年創業。拠点を置くバジェ・デ・オホス・ネグロスは標高700mに位置し、バハ・カリフォルニアの7つの谷の中でもとくに高地にあたる。「この地域の特徴は大きな日較差。昼間は32℃まで上がり、夜間は10℃まで下がる環境が、黒ブドウ品種のフェノールの成熟を促す」と醸造家のマリオ・ガルシア氏は語る。
同社の「インフィニート 2023」はネッビオーロ100%で造られ、フレンチオーク樽で8か月熟成される。熟した黒い果実の香りに加え、ヴァニラやローストコーヒーのニュアンス。タンニンは重厚で存在感があり、ピエモンテのネッビオーロとは明らかに異なる個性を持つワインに仕上がっている。

白ワインは今回試飲しなかったが、米国カリフォルニアと地続きでありながら、バハ・カリフォルニアではシャルドネの単一品種ワインが少ないそうだ。栽培はシュナン・ブラン、ソーヴィニヨン・ブランに次いで第三位である。「米国カリフォルニアが、アメリカ大陸におけるシャルドネワインの有力産地として確立されているため、私たちはこの品種を異なるアプローチで活用している」と、ニシカワ氏。

バハ・カリフォルニアのワイン産業は米国の模倣ではなく、独自のアイデンティティを模索している。メキシコのワイン産地として約140年の歴史を持つ同地域は、今後も独自の個性を磨いてきそうだ。

(N. Miyata)

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