“魂がある”と呼ばれるワイン ベガ・シシリア、ウニコの時間を飲む


井黒卓氏。2024年、ベガ・シシ リアの畑にて。



「対極だからこそ飲んでほしい」
ソムリエ、井黒卓氏に聞く

 2020年の全日本最優秀ソムリエコンクールを制した井黒卓氏。現在は東京ソムリエギルド及びTACTICAL WINE CONSULTANT代表として活動する。
 一昨年、ベガ・シシリアを訪れた。畑にも蔵にも、途方もない年月の痕跡が残っていた。人の胴体ほどもある古木の株が現役で使われている。セラーに入ると、レセルバ・エスペシアル用の巨大な大樽が並んでいる。現地で見たものは、そのままお客に伝えるべき言葉になる、と井黒氏は考える。

「真骨頂は、セラーでの熟成にあると思います。樽の扱いひとつで風味は変わる。ベガ・シシリアの使い方は本当に上品です。特に『レセルバ・エスペシアル』。ヴィンテージが単一ではなくて、ミックスをするというところに、全てが詰まっています」。


「バルブエナ」を飲んで、完成されていると思う。「ウニコ」を飲むと、「バルブエナ」はまだまだだと思う。「レセルバ・エスペシアル」を飲むと、「ウニコ」でさえまだまだだと思う。井黒氏は、そのヒエラルキーの格の違いを「驚き」と呼ぶ。
 さらに、偉大なワインにはパラドックスがある、と井黒氏。

「ブルゴーニュの最高峰はエレガントなのにパワフルです。ナパやボルドーはパワフルなのにエレガント。ウニコも同じです。しっかりしているのに、エレガンスがある。その源泉は、古い樹かもしれない。石灰質の土壌かもしれない。熟成かもしれない。ひとつ欠けても、それはもうベガ・シシリアにはなりません」。

 他のリベラ・デル・ドゥエロの著名なワインを試しても、ウニコに似ていると感じることはほとんどないという。

「あそこにしかない唯一無二のテロワールがある。語れるワインと語れないワインがある。ベガ・シシリアは間違いなく、ソムリエがその歴史と哲学を語るに足るワインです」。

左/人の胴体ほどもある古木の株。「これほどの古い木が、現役で使われているのもすごいこと」(井黒氏)。 右/自社の樽工房で焼き入れを行う工程。1998年以降、ベガ・シシリアは樽を自社製造している。 写真提供:井黒氏

 
 料理との相性を聞くと、意外な答えが返ってきた。

「ウニコほどお料理に合わせやすいワインもないと思います」。

 味わいが凝縮し、香りも複雑なウニコは、フルボディでありながら料理を圧倒しない。例えば煮込み料理なら、肉であれ魚であれ、ハーブやスパイスで何層もの風味が重なる。その層と、熟成がもたらすウニコの多層的な風味が呼応するのだという。
 サービスでは、デキャンタージュで一気に開かせるよりも、グラスの中での変化を楽しんでもらいたい、と井黒氏。

「映画の予告編がワクワクするのは、全部を見せないからです。ワインも同じで、少しずつ見えてくるからこそ楽しみがあります」。

 ウニコを誰に飲んでほしいか。井黒氏の答えは、ナチュラルワイン好きの人だった。対極にある存在だからこそ、と言う。

「ナチュラルワインはいわば生のワインです。フレッシュで、開けてすぐ楽しめる。熟成によってうま味が引き出されるウニコとは、まるで違う世界にある。料理で言えば、刺身と熟成肉のようなもので、それぞれに良さがある。知らないのはもったいない。ベガ・シシリアを好きになってくれとは一切思わないんです。ただ、対極にあるものを一度体験すると、自分が普段好きなものの見方も変わるかもしれない。それがウニコというワインだと思います」。

 対極を知ることで、自分自身の好みの幅が広がり、奥行きも深くなる。井黒氏がウニコに見ているのは、そういう力だ。

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