エディターズ・チョイス2016 〜今年最も印象に残った銘柄・出来事〜

最も印象に残った銘柄・出来事 by Y. Nagoshi

2016年も多くの生産者に会うことができた。現地でワイナリーを訪問した時だけでなく、来日した造り手諸氏からも多くの刺激をいただいた。その中から、印象に残った事柄を挙げてみる。

 1)驚きの品種

6月末にギリシャを訪問した。エーゲ海の美しい島で出会った品種「アシリティコ」は本当に忘れられない。慣れない強い日差しの中で半ば熱中症になりながら、アシリティコを試飲した。「過酷な」環境に耐えるべく特別なバスケット仕立て「クルーラ」の中で育まれる小さな房の小粒の実から得られる貴重な果汁から造られるワインと思えば、なおさら感慨深い。糖分も酸度もともに高い特殊な品種から造られる白ワインだった。

まだ日本に入ってきている銘柄数や量は少ないが、もし見かけたら是非試してみていただきたい。

造り手による微妙な差はもちろんあるが、ベースとなる葡萄の品質が基本的に高いので、当たり外れが少ないこともアドヴァンテージの一つだ。

 

2)ノン・ヴィンテージの垂直試飲

シャンパーニュのノン・ヴィンテージといえば、「ノン・ヴィンテージ」なのだから垂直試飲など普通では考えない。ところが、今春ルイ・ロデレールを訪問した際、シェフ・ド・カーヴのジャン=バティスト・レカイヨンが準備してくれていた試飲の中の1セットがベースワインのヴィンテージ違いの「ノン・ヴィンテージ ブリュット・プルミエ」だった。共通した「ブリュット・プルミエ」の個性を明確に持ちながら、それぞれのベースワインのヴィンテージの特徴が如実に反映されているのが実に面白かった。

今、日本市場にある「ブリュット・プルミエ」のベースワインは2012年だ(2011年ベースもまだ市場にはあるかもしれない)。スマートフォンにLouis Roedererのアプリを取り込めば、バーコードで判明する。興味のある方は是非数年かけてベースワイン違いの「ブリュット・プルミエ」を取り置いて、比較試飲してみてはいかがだろうか。

ちなみに「クリュッグ」の「グランド・キュヴェ」でもAPPによってベースワインのヴィンテージがわかる。いずれ裏ラベルに何番目のキュヴェか、記すようになるかもしれないとオリヴィエ・クリュッグは語っていた。こちらも楽しみだ。

 

 3)経年変化
今年は東京で、とても懐かしい造り手さんに会った。おそらく10数年ぶりなのではなかったかと思う。一人はドミニク・ラフォン。多くの方がご存知のドメーヌ・コント・ラフォンのご当主だ。もう一人は、ビー・ビー・グラーツ。フィレンツェの郊外にあるフィエゾーレを拠点にする「グラッタマッコ」で有名な人だ。

かたや王道のブルゴーニュの偉大な造り手で、かたや破天荒なトスカーナの異端児だ(だった)が、二人には共通点がある。甘いマスクのイケメンさんというだけでなく、どちらもアグレッシブというか勢いがある。(ビー・ビーの方が若いが)若い頃には本人の個性もワインの特性もはっきりとしていて、とても印象の強い人だった。

久しぶりに会った彼らは、外観は少々変わったものの話してみるとアクティブで闊達な様子は相変わらずだ。ただ、造るワインの性格には変化を感じた。強さよりエレガンスを、という嗜好がメインストリームになっていることも影響しているのかもしれないが、共に年齢を経たことも関係しているのではないだろうか。今年試飲した二人のワインには、いずれも優しく穏やかなタッチが感じられた。

トップ画像:スペインのプレミアムカバの造り手「グラモナ」の敷地内で見かけた番鳥。見知らぬ者を見かけるたびに甲高い声で鳴いていた。ここではバイオダイナミクスを実践している。

 

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