- 2016-3-4
- Wines, フランス France, ボルドー Bordeaux
今年2月に初来日したジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルドは、シャトー・ムートン・ロスチャイルドの歴史の上でも初めての試みをした。それは、ムートンのラベルの原画そしてアーティストと共にワインの披露をする、というものだった。大学教員で作家でもある父、ジャン=ピエール・ド・ボーマルシェも、同行していた。
ミニマリズムの表現者として知られる韓国生まれで日本在住のリ・ウーファンは、最初に「単純明快なアートですから、それがムートンに似合うのかどうか」と感じたという。しかし出来上がったのは、筆の波によって左から右へと向かうワインレッドのグラデーションが、白い空間に美しく映えるシンプルな絵画だった。
「単純なだけに、一目見て『何、これ?』と思う人がいるかもしれません。でも周りがないので、描かれたものが描いていない部分とリンクしてひとつの絵画になっています。このワインカラーがひとつのバイブレーションを起こし、とても豊かな、時としてはエロチックともいえる世界を表現できればよい」と考えている。
偶然にもサーヴィス中についたと思われる一滴のムートンが、ラベルのワインレッドに華を添えていた。
2013年ヴィンテージのワインについては「困難な年と言われていますが、昨年試飲をして、骨格がしっかりとして様々なニュアンスを含み、若くても熟成させても美味しく飲めると感じました」とコメントした。
一方ジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルドは、惜しくも2014年に他界した母、フィリピーヌ・ド・ロスチャイルド男爵夫人から、ラベルを飾る作品のアーティスト選択と管理という大役を引き継いだ。リ・ウーファンの作品は、ベルサイユ宮殿の広場で初めて父と共に見たという。
「リーさんのことを、アートノロジストと呼びたいと思います。偉大なアーティストでありながら、エノロジスト(醸造家)のようにワインにとても詳しいからです」と絶賛した。
実際のところ、リー・ウーファンは相当なワイン・ラヴァーのようだ。自分の友人でありライバルでもあるアーティストたちがムートンのラベルを飾るのを、羨望の目で眺めていたようだ。それだけに、思いの込められた、しかしミニマリズムらしい作品になったのではないだろうか。筆遣いの様子は、是非原画を見て感じ取っていただきたい。
2013年の気候:冷涼で雨の多い春に始まり、開花まで影響を及ぼした。対照的に7月、8月は暑く日照量も多く、降水量は平年よりかなり少なかった。収穫は9月30日から10月9日に行われ、過去40年で収穫量は最も少ない部類に入るほどだった。
味わい:華やかな香りで、凝縮したブラックチェリー、カシス、ロースト香などが豊かに広がり、既に開き始めている。味わいもなめらかなアタックに始まり、やわらかくしっとりとしたニュアンス。酸が綺麗で心地よく、タンニンはとても細やかで馴染んでいる。フレッシュな香りが余韻に長く続き、今でも美味しく飲み始められる。優雅なタイプのムートン、という印象だった。(Y. Nagoshi)
画像:右からジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロスチャイルド、リ・ウーファン、ジュリアンの父ジャン=ピエール・ド・ボーマルシェの各氏
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